喫煙者を身震いさせる制度が、中国・北京市でスタートした。北京では6月1日、屋内の喫煙を全面的に禁止する禁煙条例が実施されたが、このたび、これに違反する喫煙者をみつけたら当局に「密告」するボランティア制度が始まったのだ。
共同通信によると、「現在約1万人の要員を年末までに10万人に増やす方針」なのだという。ボランティアの「密告者」は、写真を撮るなどして当局に通報し、その後、関係当局が対応するようだ。
日本でも、日に日に喫煙者を取り巻く環境は厳しいものとなっている。はたして、日本でもこのような「密告制度」が実現するのだろうか。また、その実現を阻む法律や条例はあるのだろうか。第二東京弁護士会で受動喫煙防止部会長などを務める岡本光樹弁護士に聞いた。
●日本でも導入することはできる?
「実は、これに類似する制度は、日本でも既にあります。たとえば、東京都千代田区でボランティアの区民や在勤者が、区から啓発員証や腕章の貸与を受けて、条例違反者への注意喚起を行う『喫煙マナー啓発員』という制度です。
千代田区に問い合わせたところ、現在は休止中のようですが、ボランティアの市民が喫煙を監視して注意するという点で共通性があります。ただし、過料の徴収を直接行うことはできません」
日本の法律は、北京のような制度を認めているのだろうか。
「そもそも、我が国の刑事訴訟法は『何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる』(同法239条)と規定し、一般人も、犯罪の告発を行うことができます。また、犯罪の証明に必要なら、犯罪行為に対する写真撮影も認められると考えられます。
さらには、私人による現行犯逮捕も、刑事訴訟法で認められています(同法213条、軽微事件について同法217条)。こうした日本の法制度から見れば、今回の北京の一般市民による法令違反者に対する『告発制度』も、法理論上、問題があるとは思いません」
海外と日本とで、喫煙に対する法律上の位置づけが違う?
「海外の多くの国々では、受動喫煙防止の観点から、屋内での喫煙が罰則をもって禁止されています。しかし、日本はこうした法規制が大幅に遅れています。
屋内施設等を対象とした神奈川県や兵庫県の受動喫煙防止条例や多数の地方自治体における路上喫煙禁止条例等でも、違反喫煙は、行政罰『過料』の対象ですが、『罰金』『科料』等の刑事罰は適用されていません」
●法違反行為に対する監視は「正当な行為」
これまで日本の受動喫煙防止問題に取り組んできた岡本弁護士の目には、北京の制度はどのようにうつるのだろうか。
「受動喫煙防止について、我が国では健康増進法25条および労働安全衛生法68条の2で、努力義務が規定されていますが、いまだに法律上の罰則規定がないことは問題だと思います。受動喫煙で苦痛を受けている人々が今も多くいます。2020年東京オリンピック・パラリンピック開催にあたっても世界に恥ずべき状況だと思います。
世界のほとんどの国が、受動喫煙防止およびタバコ消費の削減を目的とする『たばこ規制枠組条約』の履行に本腰を入れて取り組んでいます。今回の北京のニュースもこの現れです。
もし仮に、密告することを市民に義務付けたり、過大な報奨によって虚偽告発が横行して冤罪が起きたりといった場合には、弊害があると言えます。一方で、法律違反行為に対して、市民がそれを自発的に監視し、証拠に基づいた告発を行うことは、正当な行為です」
岡本弁護士はこのように述べていた。