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「選挙権と同列には扱えない」酒・タバコ「18歳解禁案」弁護士19人の意見
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「選挙権と同列には扱えない」酒・タバコ「18歳解禁案」弁護士19人の意見

選挙権の年齢が、来年の参院選から「18歳以上」に引き下げられるのに伴い、自民党の「成年年齢に関する特命委員会」が検討していた飲酒や喫煙の「18歳解禁案」。当初は解禁を妥当とする案が検討されていたが、同委員会は9月10日、引き下げへの賛否を両論併記する提言をまとめた。

結局、18歳解禁論は事実上撤回されたわけだが、酒・タバコの年齢制限の見直しをめぐっては、ツイッターなどソーシャルメディア上でも、賛成・反対の激論が起きていた。

弁護士たちは、飲酒・喫煙の年齢を引き下げることについて、どう考えているのだろうか。弁護士ドットコムに登録している弁護士たちに意見を聞いた。

●「18歳で解禁せよ」と回答した弁護士はゼロ

以下の3つの選択肢から回答を求めたところ、19人の弁護士から回答が寄せられた。

1 飲酒・喫煙は「18歳から」解禁すべき → 0人

2 飲酒・喫煙は「20歳から」に据え置くべき → 14人

3 どちらでもない → 5人

<「20歳から」に据え置くべき>は14人、<どちらでもない>は5人、<「18歳から」解禁すべき>と回答する弁護士は、1人もいなかった。

<「20歳から」に据え置くべき>と回答した弁護士の中では、「18歳、19歳は身体が未成熟だ」として、酒とタバコの健康に対する悪影響を懸念する声が多くあがっていた。また、「選挙権を与えることと、飲酒喫煙を認めることを同列には扱えない」といった、選挙年齢を下げるから、飲酒喫煙解禁年齢を下げるという考えを批判する声もあった。

<どちらでもない>と回答した中には、年齢ではなく、高校卒業のタイミングで解禁すべきという意見もあった。また、酒は18歳解禁でよいが、体に有害なことが明らかなタバコは、20歳のままにすべきという意見もあった。
回答のうち、自由記述欄で意見を表明した15人のコメントの全文を以下に紹介する。(掲載順は、20歳からに据え置くべき→どちらでもないの順)

●飲酒・喫煙は「20歳から」に据え置くべき

【秋山 直人弁護士】

「選挙権を18歳以上に引き下げることは賛成ですが、飲酒・喫煙の関係や少年法の関係では、20歳から18歳への引き下げには反対です。18歳、19歳はまだまだ未熟な面があり、安易に飲酒・喫煙の害に溺れることが懸念されます。また、家庭環境等から非行に走りがちですが、まだやり直せる可能性も十分ある年齢です。18歳・19歳については、政治に関心を持って投票はしてもらえば良いですが、社会として、飲酒・喫煙について緩めるべきではないですし、安易な刑罰は有害無益だと思います。無理に一致させる必要はありません」

【中村 晃基弁護士】

「飲酒・喫煙の関係、少年法の関係、及び民法との関係では、20歳から18歳への引き下げには反対です。18歳、19歳はまだまだ未熟な面で保護すべき対象であること、飲酒・喫煙は、非行のきっかけになっている場合も多いことに注意するべきです。無理に一致させる必要はありません。18歳、19歳の考えを国政に反映させることとは全く別です。民法に関して言えば、一人暮らしを始めた大学一年生が未成年者取消しの制度に助けられて深刻な消費者被害を免れている例が多いことも忘れてはなりません」

【杉山 伸也弁護士】

「選挙権・飲酒・喫煙が20歳とされているのは未成年ゆえに心身がまだ成熟していないからです。選挙権は判断能力の未成熟、飲酒・喫煙は身体の未成熟。ただ、選挙権については『ネットをはじめ情報化社会の発達により18歳でも選挙権を行使するだけの判断能力を持てるようになった』という理由で引き下げの説明はつくかもしれません。しかし、飲酒・喫煙はあくまで身体の発達の問題なので、社会がどう変化しようとも、20歳という年齢を引き下げる理由にはなりえません」

【濵門 俊也弁護士】

「自民党の議員の方々には、もう少し法の趣旨・目的を考えていただく必要があります。選挙権の年齢引下げは、国民主権の原理(治者と被治者との自同性)をさらに前進させるものであり、大賛成ですし、異論はないでしょう。しかし、成人年齢や飲酒・喫煙の禁止は、パターナリズムからの規制です。それを安易に規制緩和した場合には、消費者被害や健康被害が増大することが火を見るより明らかではないでしょうか。若者の貧困問題は喫緊の課題ですし、新歓コンパでの悲劇をよもや忘れたとは言わせません」

【岡田 晃朝弁護士】

「選挙権を与えるかと飲酒喫煙を認めるかを同列には扱えないでしょう。まず精神的な選挙が出来る程度の成熟年齢と、肉体的に薬物に耐性がつき、依然しない意思がもてる時期とはズレがあるでしょう。これを同列に扱うのは無理があります。また、政治的な判断は、若いが故の判断と言うものも社会の発展に必要な場面があると思われますが、喫煙や飲酒はそのような面はありません」

【中尾田 隆弁護士】

「法律上の成人年齢をいつにするかは、法の趣旨目的に照らし判断されることです。したがって法の趣旨が参政権と未成年者保護と異なりますから、選挙権の成人年齢と飲酒喫煙の成人年齢が異なることは、むしろ合理的です。もちろん個々の法律により成人年齢が異なると混乱の元ですが、現在の社会環境でいえば選挙権18歳と飲酒喫煙20歳としても混乱は少ないと思われます」

【武山 茂樹弁護士】

「飲酒・喫煙が身体の安全を害するから禁止されるという立場に立つと、20歳も18歳もあまり変わらず、年齢を引き下げてもよいと思われるかもしれません。ただ、線引きを18歳にすることは反対です。現在、18歳というと、大半の方が高校生です。高校生のうち、飲酒喫煙ができるグループとできないグループに分かれてしまうのは不自然ですし、規制も困難だと思います。今まで通り20歳が適切だと思います」

【加納 雄二弁護士】

「選挙権の問題は、政治への関心も高めようということで、期待を込めたものであり、飲酒喫煙は健康上の問題でもあるし、立法事実、論点が別であって連動すべきものではありません。また、少年法の適用年齢引き下げも同様で、選挙権と同列に論じるべきものではありません。こちらは私の経験上も成熟年齢がどんどん下がっていることで25才にしても良いのでは、と思います」

【大賀 浩一弁護士】

「これまでに意見を述べられた先生方と同様、選挙権=喫煙・飲酒解禁年齢とする合理的な根拠が見出しかねるのみならず、成長途上にある青年の身体に対する悪影響を考えれば、あえて解禁年齢を引き下げるべきではないと思います。一部の高校生だけ酒もタバコも法的に解禁となれば、各高校の校則で禁止しても効果は期待しにくく、かえって18歳に達していない生徒が飲酒・喫煙に巻き込まれるおそれもあるのではないでしょうか」

【伊佐山 芳郎弁護士】

「飲酒・喫煙には強い依存性があり、その依存性は年齢が低いほど強く形成されると言われます。特に、喫煙は、肺がんをはじめ多くの病気の原因となることが、国際的疫学調査で明らかにされています。大阪成人病センター名誉総長佐藤武男博士の「喉頭癌」(金原出版)によれば、喉頭癌患者1469名中、喫煙者率が97・3%と報告されています。たばこの税収は約2兆円、喫煙による経済損失は5兆6000億円と試算されています(国立がんセンター研究所等の試算報告)。年齢制限緩和には強く反対します」

●どちらでもない

【河本 泰政弁護士】

「飲酒が認められる年齢・喫煙が認められる年齢を定めるためには、その年齢での飲酒・喫煙による健康への悪影響がどのようにあるかによって決定されるべきである。その点で、選挙権の年齢・民法上の成人年齢が18歳となったから当然に飲酒・喫煙も18歳から可能になるというものではない。むしろ、医学上の見地から議論をすべきではないか」

【中嶋 靖史弁護士】

「18歳が属する3月31日を経過した時点にすべきだと思います。高校を卒業すれば解禁される、という趣旨です。ただし、例外として留学等で高校卒業が遅れた場合は、高校生の間は不可、またその例外として高校生であっても満20歳になれば解禁、というのがいいと思います。成人年齢も同様です。高校を卒業する年齢になればみんな大人扱い、また、満年齢ではなく、同じ学年は全員同時に扱いを変えるべきだと思います」

【石井 康晶弁護士】

「選挙権を何歳から与えるのが妥当かという問題は、「これくらいの年齢なら国民の代表となるべき議員をちゃんと考えて選べるだろう」という、精神的(知的)能力の成熟度に着眼して考慮するべきですが、飲酒や喫煙は体への悪影響を考えて規制されているのですから、選挙権とは問題が異なります。飲酒喫煙をいつから認めるかは、体への悪影響の程度を考慮して医学的知見から判断されるべきであり、選挙権年齢とは無関係といわねばなりません」

【川面 武弁護士】

「喫煙と飲酒は明確に区別して論じるべきです。『タバコは人殺しである』と言われるように、喫煙は自傷他害の絶対悪であり、今日新たなニコチン中毒患者を増やすような愚策など決して検討課題にすべきではありません。タバコ後進国の日本において19世紀末年にできた未成年者喫煙禁止法は唯一世界に誇れる立法です。喫煙可能年齢引下げなど論外で、むしろ22歳への引上げこそ検討すべきです。21世紀に出生した者には生涯喫煙を許さないという対策も検討されるべきです。一方飲酒は、18歳に達した後の4月1日以降解禁で可と思います」

【西島 和弁護士】

「『18歳は大人』という考え方にたって、飲酒、喫煙についての判断も個人にゆだねる、という考え方はありうると思います。しかし、特にたばこに関しては、健康に悪影響のあることが部分的にせよ健康増進法で合意されたところですし、喫煙者の増大は医療費の増大にもつながりえますから、健康への悪影響についての情報提供を強化するとか、たばこ税を増税するなど適切な措置を取った上で解禁年齢を引き下げるべきと思います。それと、議論の順番としては、被選挙権年齢を選挙権年齢と同一とする議論の方を先にすべきと思います」

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