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エステサロンの「脱毛」には注意が必要? やけどになれば「医師法違反」の可能性
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エステサロンの「脱毛」には注意が必要? やけどになれば「医師法違反」の可能性

肌を露出する夏は、特に女性にとって、ムダ毛が気になる季節だ。雑誌やネットでは、芸能人を起用し、安さや顧客満足度を前面に打ち出したエステサロンの「脱毛」の広告をよくみかける。

しかしエステ脱毛をめぐるトラブルは少なくない。国民生活センターによると、2005〜2014年度の10年間で、エステ脱毛の健康被害について寄せられた相談件数は1751件にのぼった。2010〜2014年度の5年間に限ると、738件だったという。

「2010年度以降の相談では、赤みや腫れなどの皮膚障害が371件、やけどが292件。相談内容としては『施述したところが腫れてしまった』『左ほほに赤いあざが残った』『色素沈着を起こしてしまった』などの相談が寄せられています」(国民生活センター・担当者)

これほどのトラブルが起きているのに、なぜエステでは脱毛が許されているのだろう? はたして、これで安全といえるのか? 実態を調べるべく、弁護士ドットコムニュースの女性記者が実際にエステでの脱毛を体験し、日本エステティック振興協議会、厚生労働省に話をきいてみた。

●エステサロン「ちゃんと続けると毛がなくなりますよ」

ある夏の日の夜、弁護士ドットコムニュースの記者(26歳女性)は、実際に脱毛の施術を体験するべく、渋谷にある大手エステサロンに向かった。

接客を担当したエステティシャンは、「エステでは、レーザーではなくて、光で脱毛するんですよ。光脱毛というのは、黒いものに反応して、赤い光が出る仕組みなんですけど、レーザーに比べて痛くないんです」と話す。

その効果をたずねると「(2か月ごとに)3〜4年きっちり通ってもらえば、毛はほとんど生えなくなります!」と力強い答えがかえってきた。

「ホルモンバランスで、1〜2本生えてしまうことはあるんですけど。ちゃんと続けると毛がなくなって、自分では何もしなくてよくなりますよ!」

なるほど、こうした説明から察するに、エステでの脱毛は「永久脱毛」の効果が得られるらしい。実際に施術をしたところ、施術中に若干の痛みはあったものの、腫れややけどなどの症状は出なかった。短時間の施術で、針金のような剛毛と永久にさよならできるなら、通ってしまおうかと思ったほどだ。

●美容ライト脱毛の効果は「一時的な脱毛」

この体験取材の翌日、記者の興奮は一気に冷めてしまった・・・。

エステ業界の健全な発展を目的に、法令遵守などの周知徹底を行う一般社団法人「日本エステティック振興協議会」の事務局長が、エステでおこなう脱毛について、「除毛・減毛を目的とした一時的な脱毛」と説明したからだ。

「一般的に、クリニック(病院)で使用されている脱毛機の場合、レーザー等の光は強い出力となります。この強い光を毛根部に照射し、毛乳頭、皮脂腺開口部等を『破壊』することで脱毛をするのです。レーザーは光の出力が強く、やけどなどを起こす可能性があるので、医師でなければできません。

それに対して、日本エステティック振興協議会の『美容ライト脱毛』の定義は、除毛・減毛を目的とした一時的な脱毛であって、皮膚に負担を与えず、毛の幹細胞を『破壊しない範囲』で行われます」

つまり、エステで行われる美容ライト脱毛は、永久脱毛の効果はないということだ。また、美容ライト脱毛で使う光は「電球の球のようなもの」で、クリニックなどの脱毛機から出るレーザーとは、出力数が違うだけではなく、そもそも別物なのだという。

では、記者が施術を体験したエステサロンの担当者が強調した「永久脱毛」効果は、ウソだったということなのか? 

この点を尋ねると、「そのエステがどのような脱毛機(レーザー脱毛・電気脱毛・光脱毛)を使用しているかが分からないため、明確なお答えはできない」とのことだった。

日本エステティック振興協議会は、美容ライト脱毛の自主基準を作成し、エステサロンへの啓蒙をおこなっているという。しかし、全国にある全てのサロンが、同協議会の規制に沿った美容ライト脱毛機を使っているわけではなく、完全に浸透しきっていない現状も認めていた。

●厚労省「脱毛でやけどなどが生じれば、医師法17条に違反」

エステサロンと、業界団体の説明が食い違うのはなぜか? 業界団体があくまで「一時的な脱毛」を強調するのには、ワケがあった。クリニックなどでの脱毛行為を管轄する厚労省医政局医事課長が2001年、各都道府県衛生主管部(局)長にあてた通知の内容だ。

通知では「用いる機器が医療用であるか否かを問わず、レーザー光線又はその他の強力なエネルギーを有する光線を毛根部分に照射し、毛乳頭、皮脂腺開口部等を破壊する行為」を、医師免許を持たない人が業として行えば、医師法第17条に違反するとしたのだ。

では、業界団体が「一時的な脱毛」といい、実際の店舗では「永久脱毛」効果をにおわせる脱毛方法は、本当に法的な問題がないといえるのだろうか? 厚労省医政局医事課の担当者に話を聞いた。

「業界団体が行っている美容ライト脱毛は、ただちに問題がないとは判断できません。具体的な光の当て方によりますので、個別具体的に判断されます。仮に、2001年の通知に反しないようにみえる方法で脱毛を行ったとしても、やけどなどが生じれば、医行為と判断され、医師法17条に反する可能性があります」。担当者はこのように説明した。

通知では、エステなどで医師ではない人が、レーザーや強力な光線を当てて脱毛を行えば医師法違反になるとしている。ただ実際には、やけどなどの目に見えるトラブルがない限り、そのエステでレーザーや強力な光線を使った施術が行われていたと証明することは難しいのが実情だという。

やけどといえば、先述の国民生活センターの調査では2010年度以降、エステ脱毛でのやけどについて寄せられた相談件数は300件にせまる。医師法に違反するのであれば、やけどを負うような施術をしたエステの経営者などは逮捕されるべきではないのか。

担当者に尋ねると、「それは警察のほうで捜査することです。厚労省では、特に対応していません」とのことだった。

そして、エステなどでの医師法違反行為について、何らかの指導を行っているのかと尋ねたところ、「2001年に通達を出して以降、新たな通達は出しておらず、指導なども行っていない」と話していた。

明確な違法行為が放置されていると感じるのは、記者だけだろうか?

(弁護士ドットコムニュース)

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