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「憲法学者の中で改憲論者は警戒されている」安保法案「合憲論」百地教授に聞く
日本大学法学部の百地章教授

「憲法学者の中で改憲論者は警戒されている」安保法案「合憲論」百地教授に聞く

集団的自衛権の行使を可能にする安保法案をめぐって、多くの憲法学者から「違憲」の大合唱が聞こえてくる中、少数ながら堂々と「合憲論」を主張する憲法学者がいる。「合憲」とする学者は、憲法をどうとらえているのか。日本大学の百地章教授に聞いた。

●護憲派のヒエラルキーができている

――なぜ、「少数意見」になってしまったのか。

安保法制を合憲だと考えている憲法学者は、私のほかにも結構います。だけど、声を上げられない雰囲気があります。

憲法学者の学界では、護憲派のヒエラルキーができています。その中にいて、「あいつは改憲論者だ」ということになると、警戒、排除されるおそれがあります。発表の場が失われたり、論文の執筆の機会を奪われたりということもありえます。そうなると、賢明に対処しようという学者は、声を上げられないのです。

私は、この国の憲法の成立過程に疑問を感じています。憲法を改正する必要があると考えています。平和憲法が、そんなにいいものだったら、世界中が輸入してくれそうです。でも、そうなってはいません。

自らを守ることができない国家なんてありえません。世界の歴史から見ても、はたしてこれでいいのかという疑問がありました。憲法をなんとか改正したいという思いで、これまで主張を続けてきました。

●新しい安保法制で「ポジティブリスト」を増やす

――従来と異なる安保法制が、なぜ必要なのだろうか。

これまでの日本は「集団的自衛権を保有しているけれど行使できない」という状態でした。それを国際標準に合わせて、行使できる状態にするのが、今回の安保法制です。

政府見解では、憲法9条1項は、侵略戦争を放棄しており、戦力をもつことは認めていませんが、2項で、戦力にいたらない実力は保持できるとされています。つまり、自衛隊は「戦力」(軍隊)ではなく、「実力」だから認められるということです。

軍隊は「ネガティブリスト」で行動します。「してはいけない」と、国際法で禁止されたこと以外は、主権と独立を守るために自由に行動できるということです。これが軍隊の特色です。逆に、警察は「ポジティブリスト」、つまり、具体的に「これとこれはしていい」と書いてあることしかできません。

自衛隊は法制度上、警察と同じ発想にたっています。ですから、具体的に「ポジティブリスト」として、法律に書いてあることしかできません。今回の安保法制は「してもいいこと」を増やすためです。「集団的自衛権は保有しているけど行使できない」という、これまでのいびつな状態を解消するために必要なのです。

ただし、本当にやるべきことは、9条2項を改正して、自衛隊を軍隊とすることです。

――改憲をしなければ、集団的自衛権を行使できないのではないか。

そうではありません。今の憲法の枠内でも、集団的自衛権の限定的行使は可能です。それが今回の安保法制なのです。集団的自衛権は、国連憲章51条によって、すべての国連加盟国に認められた、国際法上の固有の権利です。

そのため、憲法に明記されていなくても当然に行使することができます。当たり前のことをわざわざ明文化することはありません。調べた限りですが、他の国でもそんなことをわざわざ規定している国はありません。

――国際法のほうが、憲法より上ということなのか。

国際関係においてどちらを優位にするのかという問題と、国内においてどちらを優位とするのかという問題は、分けて考える必要があります。

国内的には、条約よりも憲法が優位だというのが政府見解なので、憲法に違反するような条約は違憲無効になります。

ところが、国際社会においては、国際法が優位しています。だから、国際社会では、各国とも国際法にしたがって行動しています。国際関係においては、憲法を引き合いにだしたら国際秩序が成り立ちませんから。

●「お抱え学者が徴兵制合憲を主張している」報道に「そんなわけない」

――一部の報道では、「お抱え学者の百地教授は徴兵制も合憲だと主張している」と伝えられているが、真意なのか。

全くの事実無根です。徴兵制は憲法違反だといっています。ただ、政府のいう違憲論は理屈に合わないと考えているということです。

憲法18条には「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない」とあります。

政府の理屈では、徴兵制は「意に反する苦役」にあたるから違憲だというわけです。しかし、そうだとすると、自衛官は、自ら率先して、自らの意思で「苦役」についているということになる。国を守るという神聖な任務に就いている人に対して、「あなたがやっていることは苦役だよ」というのは失礼極まりないと思います。

国際的に見ても、強制的な労働の中には、軍務的な役務は含まれないと国際人権規約に書いてあります。徴兵を苦役と考えている国は、私の知る限りありません。

私は、憲法で軍隊の存在が認められていないので、徴兵制も認められていないと考えています。つまり、徴兵制は9条違反ということです。また、現実問題として考えても、仮に改憲したとしても、徴兵制を定めることはないでしょう。

今日の軍隊は極めてハイテク化しています。素人の国民を連れてきて、1年2年鍛えたところで、なんの役に立つというのでしょうか。かえって足手まといになります。いい加減なことを報道するのはやめてほしいですね。

(弁護士ドットコムニュース)

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