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中学卒業したら「投票」できるようにすべき――「18歳選挙権」の先にあるものは?
NPO法人「YouthCreate」代表の原田謙介さん

中学卒業したら「投票」できるようにすべき――「18歳選挙権」の先にあるものは?

選挙で投票できる年齢を「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げる公職選挙法の改正案が、6月17日にも国会で成立する見通しだ。選挙権の年齢引き下げは、終戦直後の1945年に「25歳以上」から「20歳以上」となって以来、70年ぶりのことになる。

報道によると、改正法案が成立すれば、来年夏の参議院選挙から、高校生の一部を含む約240万人が新たに有権者に加わるという。国会議員を選ぶ国政選挙だけでなく、地方自治体の首長や議員を選ぶ地方選挙でも18歳以上が投票できるようになるため、若者の政治参加の拡大が期待されている。

このまま改正法案が成立し、「18歳選挙権」が実現したら、どんな影響があるのだろうか。若者の政治参加を広げる活動をおこなっているNPO法人「YouthCreate(ユースクリエイト)」の代表をつとめる原田謙介さん(29)に聞いた。

●「若者と政治の関係が変わるタイミングになる」

――18歳選挙権がいよいよ現実的になってきました。どんなことを考えていますか?

おそらく戦後70年で、若者と政治の関係が大きく変わるタイミングになると思います。同時に、社会全体として、「若い人の声を政治に活かすんだ」という意識転換も起きなければならないとも思っています。

――どんな影響があるのでしょうか?

来年夏の参議院選挙では、有権者が240万人くらい増えるといわれています。これは、全有権者からすると、微々たる数字でしかありません。国政に限っていえば、若者の意見が通りやすくなるわけではないと思います。

一方で、市議選や区議選など、当選者と次点が数十票差しかない地方選挙では、大きな意味を持つと思います。政治家の発信内容も、若者向けに変わってくるのではないでしょうか。そこから変化が生まれるのではないかと期待しています。

――今回の改正案に課題があるとすれば、なんでしょうか?

単純に比較できるわけではありませんが、諸外国では「18歳以上」の選挙権は当たり前で、さらに「16歳以上」に引き下げようという動きが加速しています。

個人的には、日本もさらに年齢を引き下げて、「中学卒業と同時に選挙権を持つ」という制度にすべきだと考えています。義務教育である中学の卒業によって、国が責任をもって一人の人間を育てる期間が終わります。そのあとは、選挙に行けるようにしたほうが良いと思います。

――選挙権のほかにも、「20歳」を権利や責任の基準としている法律があります。たとえば、少年法は「20歳未満」に適用され、民法は「年齢20歳をもって、成年とする」と定めています。これらも選挙権の年齢引き下げに合わせて「18歳」とすべきでしょうか?

原則としては、選挙権の年齢に合わせるべきだと思います。民主主義社会の根幹である選挙権を認めるのであれば、その人は社会を担う一員といえるからです。

ただ、さっきあげた中学卒業までに下げるべきかというと、悩ましいところです・・・。また、飲酒や喫煙のように健康や成長にかかわるものは、別に検討する必要があると思います。

●「生徒会長選挙を教育に活かせ」

――政治に関する教育をどうやっていくべきか、という問題も起きています。

日本の学校では、長らく、政治がタブーでした。それが変わっていくことは大きいと思います。今後は、高校生の「政治的素養」を高めるため、教育を充実させる必要があります。むしろ、義務教育の中学3年生までに、しっかりと教育すべきだと思います。

――「社会科」などの授業で、教えていくということですか?

そうですね。それに加えて、実際に、自分たちの一票によって生活が変わる体験も必要だと思います。たとえば、生徒会長選挙を活用すべきです。

多くの学校では、生徒会長選挙が形骸化しています。内申点を上げるために、生徒会長になったり・・・。でも本来なら、生徒会長選挙は、自分たちのコミュニティの選挙なので、国政選挙より身近な存在です。

そんな生徒会長選挙の候補者たちが、それぞれマニフェストを掲げて、本気で議論するようになれば、自然と「政治的素養」が身につくのではないでしょうか。

●「若者は将来への危機感を持っている」

――近年、若者の政治離れがあるといわれています。若者の政治に対する意識について、どう思いますか?

たしかにデータ上、投票に行く若者はそれほど多くありません。「どうせ、自分たちの意見は届かない」と思っている人もいます。しかし、あくまで僕の肌感覚ですが、彼らは政治に関心がないわけではありません。むしろ、将来への危機感を持っています。

――若者はどのようなことを望んでいるのでしょうか?

同じ若者といっても、それぞれ状況が違うし、困っていることや望んでいることは異なります。政治は、若者たちの意見を細分化して、吸い上げていく必要があります。

――どんな仕組みが求められるのでしょうか?

1980年代生まれの私より少し上の世代は、政治が身近にありました。たとえば、町内会には、若い人もいたし、そこに議員もフラッとやってくるということもありました。町の仕組みの中で、政治と出会う機会があったわけです。

今は、そういった既存の仕組みの中に、若者が入っていきません。一方、政治家あるいは行政は、どうしても「町内会にどうすれば若者が増えるのか?」と考えがちです。

たとえば、私は東京都中野区で、月3回ほどゴミ拾い活動をしています。同じ世代の友人と活動を立ち上げましたが、今では、上は60代から下は中学生までいろんな人が参加しています。

新たにできているグループや団体に対して、政治や行政からアプローチしていく発想の転換が必要だと思います。

今回の改正案をきっかけに、政治家はしっかりと政策を語って、若者を引き込んでいってほしいと思います。若者以外の層の票の奪い合いと、風が吹くのを待っている現状は、正直、政治側の怠慢でしょう。

【取材協力】

原田 謙介(はらだ・けんすけ) NPO法人YouthCreate代表

1986年岡山生まれ。愛媛県愛光高校、東京大学法学部卒。大学3年時に、20代の投票率向上を目指し「学生団体ivote」を設立。卒業後の2012年11月YouthCreateを設立し、「若者と政治をつなぐ」をコンセプトに活動。

(弁護士ドットコムニュース)

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