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「ハーブ」育てながら、じっくり「仕事への復帰」めざす――新しい就労支援のかたち
ハーブ畑での農作業(新しい自立化支援塾提供)

「ハーブ」育てながら、じっくり「仕事への復帰」めざす――新しい就労支援のかたち

長期の失業や引きこもりなどで、仕事から長らく遠ざかっている人たち。その就労意欲を高め、就職につなげる事業が、全国で進められている。

徳島市川内町の畑で、男性たちが汗を流して、農薬を使わずにハーブを育てている。徳島は気候がハーブ栽培に適していて「徳島県産ハーブ」は知る人ぞ知る人気商品だ。

「汗かいたなぁ」「レモングラスのお茶飲みたいなぁ」

そんな風に会話しながらハーブ農園で働いている男性たちは、不況のあおりでリストラに遭ったり、体調を崩したりして、「仕事」から遠ざかっていた人たちだ。

男性達がやっている農作業は、そういった人たちが本格的な仕事に復帰できるようになるまで「働く場所」として用意されたもの。ホームレス支援などに携わる一般社団法人「新しい自立化支援塾」(徳島市)が、国の関係団体の支援を受けて行っている「職業訓練事業」の一環だ。

サラリーマンのような「一般就労」をする前の段階として、労働時間や勤務日数などで柔軟な働き方をしながら、徐々に仕事に慣れていく――。こうした働き方は「中間的就労」と呼ばれている。

●日雇い飯場を転々

北日本出身のKさん(30代)は、2014年の極寒の夜、徳島市内の橋の下で寝泊まりしていたところを、支援塾のパトロールで発見され、緊急保護された。

親とは年端もいかぬうちに別れ、児童養護施設を経て、18歳から各地の飯場を転々としてきたKさん。日雇い労働者として過ごし、仕事がなくなるとホームレスとなる生活を繰り返してきたという。

これまでの人生を振り返って書いた記録を見せてもらうと、「ひらがな」が目立って多かった。

●ハーブティーが好物に

Kさんは生活保護を受けて暮らしを立て直しながら、ハーブ農園での農作業に従事するようになった。

仲間と作業をし、休憩時間には自分たちでつくっているドクダミ茶を飲み、軽食をとった。

「こんな風に食事をする習慣はなかった」。Kさんは、働き始めたころ、そんな風に話していたという。

なじみがなかったというハーブティーが、いつのまにかKさんの好物になった。放浪生活で疲弊していたが、健康もしだいに回復し、最終的には自分で就職先を見つけることができたという。

支援塾代表の森本初代さんは「単に『働けるよう頑張れ』と応援するだけではだめ。就労支援で忘れられがちなのは、心身の健康の回復です」と指摘する。支援が必要な人たちの中には、病気を抱えた人や、野菜を摂らないなど不健康な食生活の人が多いそうだ。

失業し、自暴自棄な生活を送っていたAさん(40代)も、ハーブの栽培で汗を流し、ドクダミ茶などのハーブティーを飲んで、次第に気力と健康を取り戻したうちの一人だ。現在は、ハローワーク認定の職業訓練に通い、専門技術を身に着けようとしている。妻と一緒に介護関連の事業をするという新しい夢もできたという。

●健康的な生活が「就労」に結びつく

「太陽の下で体を動かすことにプラスして、生産したハーブをお茶にして飲んでいれば体も元気になります。健康的な生活は、継続的な就労に結びつくのです」。森本さんによると、糖尿病やアルコール依存症が改善したケースもあるという。

中間的就労には、ジョブコーチなどの指導を受けながら企業で働く「雇用型」と、新しい自立化支援塾のハーブ農作業のような「非雇用型」の2種類がある。より仕事への意識が高い人は雇用型が適しているだろうし、健康面など仕事に不安を抱える人は、非雇用型が合っているだろう。

中間的就労を推進する「生活困窮者自立支援法」が今年4月に施行されたこともあり、今後はこうした事業が全国で増加するとみられている。この新しい取り組みによって、どこまで「就労」は進むのか。今後の動向が注目される。

【取材協力団体】

事務所名 :一般社団法人  新しい自立化支援塾

事務所URL:http://sienjuku.chu.jp/

(弁護士ドットコムニュース)

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