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「戦場ジャーナリスト」は本当に必要なのか? 人質事件を受けて問われる「存在意義」
紛争地帯での取材経験が豊富なジャーナリスト佐藤和孝さん

「戦場ジャーナリスト」は本当に必要なのか? 人質事件を受けて問われる「存在意義」

紛争地帯を取材するジャーナリスト後藤健二さんらが中東の過激派組織「イスラム国」の人質となり、殺害された事件をきっかけとして、「戦場ジャーナリスト」の役割をめぐる議論が起きている。命を落とす危険をおかしてまで、ジャーナリストは、政府が渡航自粛を求めるような紛争地域に足を踏み入れるべきなのか。

イラクやシリアなどで取材活動をしてきたジャーナリストたちも、改めてその仕事の意義が問われている。2月17日には、国際ジャーナリストの支援団体「山本美香記念財団」が東京・渋谷で、「なぜジャーナリストは戦場へ向かうのか」と題したシンポジウムを開いた。

シンポジウムには、同財団の理事長で、ジャパンプレス代表の佐藤和孝さんもパネリストの一人として登壇し、海外での取材経験をもとに、「戦場ジャーナリストの存在意義」について語った。

●戦地で負傷したジャーナリストに「仕事の意味」を取材した

「2012年に僕は、同僚であり、パートナーである山本美香をシリアでなくしました。この仕事、戦場ジャーナリストは、命をかけてまでやるような仕事なのかどうなのか。美香の死にどういう意味があったのか。本当に考えさせられました。

今回また、後藤さんが現場で亡くなりました。僕は『殉職』だと考えています。ただ、こういう事件を受けて、世の中の話に耳を傾けてみると、『なぜジャーナリストはそんな危険なところに行くのか』という声を多く耳にしました」

佐藤さんは冒頭のあいさつでこのように述べた。「この仕事を35年やっている。演歌歌手なら大リサイタルを開かないといけないくらい」と語る佐藤さん。銃撃の弾が頭の横を通っていったり、爆弾が近くに落ちたりといった危険な事態にも遭遇したが、「だからといって、この仕事をやめたいと思ったことはありません」という。

だが、最も身近な存在であった山本美香さんの死を受け、「戦場ジャーナリストの意味」について、深く考えざるをえなくなった。山本さんが亡くなった2012年には、紛争地帯で負傷した欧米のジャーナリストたちに、「なぜ戦場へ行くのか」を聞いて回ったという。佐藤さんはシンポジウムで、そのうちの一人から聞いた話を紹介した。

「クリフト・カンクというフランステレビのカメラマン。45歳で、アフガニスタン、チェチェン、イラク、ソマリアを取材してきた歴戦のジャーナリストです。彼は、2012年にシリアのホムスで、同僚と一緒に現場の取材をしていたんですが、迫撃砲弾が飛んできて、同僚は即死。彼も破片を受けて、ケガをして国に帰りました」

●「この仕事は絶対に必要」と答えた戦場ジャーナリスト

このフランス人ジャーナリストに、佐藤さんは質問した。「我々ジャーナリストが命をかけ、命をなくしてまでも、伝えなければいけないものはあるでしょうか」。それに対する回答は次のようなものだった。

「それは難しい質問です。しかし、私はこの仕事で起きたことを伝えていかなくてはならないと思っています。そうしなければ、言論の自由が消滅してしまいます。独裁者が、シリアでいま起きているように横行し、市民を虐殺するでしょう。ですから、私たちは伝えなくてはならないのです」

さらに、佐藤さんが「この仕事は必要でしょうか?」とたずねると、次のような答えが返ってきた。

「この仕事は絶対に必要です。圧制者に対する反対勢力ですから。この仕事がなくなれば、圧制者が横行するでしょう。そして、民主主義が消滅するでしょう。

真実に光をあて、残虐で独裁的な指導者たちがしていることを知らしめる。彼らがしていることは間違いだ、と。なぜなら、市民を虐殺しているからです。それを伝えるために、私たちがいるのです。もし、私たちにそれを伝えないようにするのなら、それは悪事への道を開くことになるでしょう」

紛争地帯で取材する他のジャーナリストたちに同様の質問をぶつけたところ、そのほとんどが言い方は違うが、同じような言葉を口にしたという。また、戦地で大ケガをして帰国したジャーナリストに「あなた、現場に戻りますか?」とたずねると、みなが「もちろん」と答えるのだそうだ。

「彼らは、自分たちのジャーナリストという仕事について、そう考えています。そして、誇りをもって仕事をしているのだと、この取材で確信しました」

このように述べたうえで、佐藤さんはシンポジウムの聴衆に向けて、こう語りかけた。

「僕もさまざまな経験してきて、いつ死ぬかわからないという現場ですが、我々が伝えることによって、きっと何かが変わってくれるだろうと信じて、やっています。今後もそれを続けていきたい。これからも、いろんな人が現場に行って大変な目に遭うと思いますが、この仕事を理解していただいて、暖かい目で見ていただけるとありがたいなと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

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