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司法から取り残された人たちを救え! 弁護士会が支援する「公設法律事務所」とは?
東京パブリック法律事務所には、ベビーベッドが用意されている相談室もある

司法から取り残された人たちを救え! 弁護士会が支援する「公設法律事務所」とは?

弁護士の人数が大きく増え、国の運営する司法支援センター「法テラス」が充実したいまでも、弁護士にたどり付けない人たちがいる――。そんな「司法から取り残された層」へのサポートとして、各地の弁護士会が支援する「公設法律事務所」が設置されている。

日弁連が「弁護士過疎」の解消のため、各地につくった「ひまわり基金法律事務所」が、公設事務所の代表例だ。また、法律事務所がたくさんある都市部にも、弁護士に依頼するのが困難な人を対象にした「都市型公設事務所」があり、都内にも東京の3弁護士会が支援する計8カ所がある。

都市部で活動する「公設法律事務所」とはどんなもので、なぜいま、それが必要とされているのか。その一つである「東京パブリック法律事務所」の所員たちに話を聞いた。

●「法的駆け込み寺」がモットー

東京パブリック法律事務所は2002年6月、東京弁護士会の支援を受けて開所した。JR池袋駅から徒歩数分のところに本所があり、都営三田線・三田駅のすぐそばに支所がある。所員弁護士は31人で、うち10人が三田支所に勤務している。「市民の法的駆け込み寺」がモットーだという。

地域の身近な法律問題から、企業法務、刑事事件まで幅広く扱っているが、法テラス経由での案件が4割を占める。生活保護を受けている人からの相談も多いという。

「なかなか弁護士にたどり付けない人たちからの、飛び込み案件が多いです。たとえば離婚案件では、『DVを受けていてシェルターにいるため、住所も明かしたくない』というような、複雑な事情がある事件が多いです。料金の支払いについては、月額数千円からの分割払いにも応じるようにしています」

同事務所の谷眞人所長は、こう説明する。

●弁護士にたどり着けない理由とは?

なかなか弁護士にたどり付けない層というのは、どういう人たちなのだろうか。自身も弁護士である谷所長は、次のように説明する。

「法テラスなど環境は整ってきましたが、司法へのアクセスは、いまでも満たされていないというのが実感です。虐待やDVの被害者など、声を上げられない人たちがいます。また、貧しかったり、高齢だったり、障害があったりすると、なかなか弁護士にはたどり着けません」

それだけでなく、法テラスの扶助基準から少しだけ外れてしまう層が「エアポケット」になっていて、意外と多いのだという。法テラスは、経済的に余裕がない人のために弁護士費用を立て替える「民事法律扶助」をおこなっているが、資力不足などの要件をわずかに満たすことができず、支援を受けられない人がかなりの数いるのだ。

「また、法人は法テラスを使えませんので、中小企業や個人事業主たちは取り残されます」

お金がないという金銭的問題、世間体などの心理的問題に加え、「何が法的問題なのか分からない」とか、「弁護士が何をしてくれる人なのか分からない」など、多くの問題が重なっているのが現状だという。

●「地域連携の拠点」となることを目指す

東京都内の「都市型公設事務所」は2000年代に入って、弁護士会が相次いで設置した。「地域の法的駆け込み寺」として機能すると同時に、過疎地に派遣する弁護士や、弁護士から裁判官となる人(弁護士任官)を養成する狙いがあった。

最近はそれに加えて、「地域連携の拠点」という役割が生まれてきているという。

「地域連携というのは、福祉の現場で働いている人や、中小・個人事業主の悩みを聞いている他士業の人たち、弱者・マイノリティ支援をしているNPOの人たちなどと協力体制を築くことです。

我々が『ハブ的機能』を果たして、何かあったらあそこに相談すればうまくいくと考えてもらえれば、情報がどんどん集まってきます。

お金のない人たちを生活保護につないだり、『クレプトマニア』と呼ばれる窃盗癖がある人を専門の病院につないだりしています」

●弁護士の「止まり木」としての役割

また、弁護士養成の側面でも、重要な役割を果たすようになってきているという。

同事務所の瀧上明弁護士は次のように指摘する。

「『地方に行きたい』という新人弁護士を養成するには、相当な負担がありますが、それに耐えられるのは、公設ならではです。地方赴任から帰ってきた弁護士が、新人を鍛え、ノウハウを継承する場としても機能していますし、任期付公務員になったり、教官になったりする人の『止まり木』としての役割も果たしています」

同事務所では、「福祉班」というチーム(弁護士7人・社会福祉士2人を含む事務局3人)を作って、区役所や社会福祉協議会などと連携を深めながら、高齢者、障害者、女性、子ども問題に取り組んでいるという。

区役所や社会福祉協議会、ケアマネージャなどから、「多額の借金を抱えた高齢者が、自宅を担保に取られている。大丈夫だろうか?」「高齢の女性が、年金を搾取されているらしい」といった情報を受けて、彼らと一緒に会議を開き、解決策を話し合っているという。

チームメンバーである宮地洋平弁護士は「依頼者の自宅や病院、地域のセンターなどに出向いて、出張相談をすることが福祉班では特に多く、フットワークの軽い弁護士が集まっています。地域に出たら、弁護士は主役ではありません。みんなで、頼り頼られつつ、地域に根ざして仕事をする充実感があります。孤独感とは無縁の仕事です」と話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

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