「ゲイであることを誇りに思う」。米アップル社のティム・クックCEOがニュースサイト『Businessweek』に寄稿した文章で、自らがゲイだとカミングアウト(告白)した。そのニュースは瞬く間に世界を駆け巡った。
クック氏はマーティン・ルーサー・キング牧師の「人生における最も大事な問い掛けは『自分は他人のために何をしているか』だ」という言葉を引用しながら、なぜいま、ゲイだと告白したのかを丁寧に説明している。
このニュースは、日本で暮らすゲイの人たちに、どのように受け止められているのだろうか。ゲイであることをカミングアウトしている南和行弁護士に寄稿してもらった。
●10代の自分が聞いたら、どれだけ喜んだろうか
ティム・クック氏がカミングアウトしたことは、とても気持ちが明るくなるニュースでした。
僕自身、10代の頃、自分がゲイであることを誰にも言えないことに、大きな悩みと葛藤を抱えていました。
自分自身のことを語る上で、自分の将来の人生を描く中で、自分がゲイであるということはとても大切で、イメージの真ん中にあることなのに、家族にも友人にも言うことがないジレンマ。
もしもゲイだと知られたらどうなるのだろうという漠然とした不安。
そういったものは、けっきょく、自分がゲイであることへの否定的な気持ちへともつながりました。
そんな10代の自分が今ここにいて、世界中で多くの人に愛されるアップル社のCEOがゲイだということを知ったとしたら、どれだけ喜んだろうと思います。
●「私は同性愛者です」と言い続ける理由
僕は、ゲイであることをカミングアウトする弁護士です。パートナー男性も弁護士ということで「弁護士夫夫(ふうふ)」としてテレビなどでも取り上げてもらいました。
そうすると多くの人たちに言われます。「ゲイであることは否定しない。しかし、なぜそれをことさら公にして、不特定多数に知らせる必要があるのか。プライベートなことじゃないか」と。
たしかに多くの異性愛の男女がいちいち「私は異性愛者です」と公言しながら暮らしているのではありません。一部の同性愛者らだけが、ことさら「私は同性愛者です」と公言することは、おかしいと思う人もいるでしょう。
しかし公言しなければ、社会では当然に異性愛者として扱われてしまいます。
僕は、社会の当たり前に対して働きかけ続けなければならないと思うから、ただのしがない弁護士ですが、「私は同性愛者です」といちいち言い続けます。
みんなに「同性愛者は当たり前のように居るんですよ」と伝えたいのです。
●シンプルな、しかし大きな決断
ぜひ皆さんには、クック氏の寄稿した文章を全文で読んでもらいたいと思います。クック氏もそのことについて、なぜわざわざプライベートなことを、今になって不特定多数へのメッセージとして公にするのかを書いています。
クック氏がゲイであることを、アップル社で共に働く多くの人は、彼を直接知る人たちは、すでに知っていたというのです。彼はなぜ、それでもなお、わざわざゲイであることをあらためてメッセージとして発信するのか。その理由についてもクック氏は明快に、そして決意を持って述べています。
"The company I am so fortunate to lead has long advocated for human rights and eqality."(私が幸運にも率いることになった企業は、かねてから全ての人の人権と平等のために尽力してきた)。(ブルームバーグ社のサイトから、原文・訳文を引用)
世界の価値観に対して大きな影響力を持つアップル社のCEOとして、人類の普遍の価値である平等と人権のために何ができるかと考えたときに、彼が示したシンプルな、しかし大きな決断が、今回のカミングアウトであると僕は受け止めます。
クック氏が言及するように、クック氏が子どもの頃に比べて世界は大きく変わった。けれども、それはまったく「まだまだ」である。そのことをあらためて考えつつも、僕は、クック氏のメッセージに明るい未来を思い描くことができました。
(ビジネスウィークに掲載されている原文)
http://www.businessweek.com/articles/2014-10-30/tim-cook-im-proud-to-be-gay
(ブルームバーグに掲載されている日本語訳)