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「こんな注文はしていない」 認知症の客が料金の支払いを「拒否」したらどうなる?
ある調査では、高齢者の4人に1人が認知症予備軍だという

「こんな注文はしていない」 認知症の客が料金の支払いを「拒否」したらどうなる?

注文に応じて庭木をきれいに手入れしたのに、依頼主から「頼んでいない」と言われたら、庭師はどうすればいいのだろうか・・・。神奈川県で造園業を営むTさんは、得意先のお年寄りから、久しぶりに庭の手入れの依頼を受けた。庭木の手入れに加え、壊れた門を直してほしいということだった。

ところが、作業を終えたTさんが料金として30万を請求したところ、お年寄りは急に「そんな注文はしていない」と支払いを拒否してきた。周囲に聞いたところ、どうやらそのお年寄りは認知症を患っているらしい。

Tさんは、「庭で剪定作業していたときは、何も言ってこなかったのに・・・」と、やるせない思いを抱えている。こんなとき、業者はどう対応すればよいのだろうか。山下茂弁護士に話を聞いた。

●依頼主との「契約」が有効かどうか

「現実的な対応としてはまず、その方の家族に相談しましょう。たいていは、法律問題になる前に、ご家族が支払うことが多いと思います

しかし、もし話が長引きそうなときは、手入れした状態を写真撮影するなど、作業の証拠を残しておきましょう」

このように山下弁護士はアドバイスするが、もし素直に払ってもらえなかったら、法律的にはどうなるのだろうか?

「今回のケースでは、依頼主と造園業を営むTさんとの間に、庭木の手入れと壊れた門の修理を内容とする『請負契約』がなされたものと考えられます。

Tさんが依頼主に代金を請求できるかどうかのポイントは、この請負契約が『有効』なのかどうかです」

●依頼主に「意思能力」があったかどうか

契約が有効かどうかの判断は、どうやってするのだろうか?

「ポイントとなるのは、依頼主のお年寄りに『意思能力』があったかどうかです。

この『意思能力』は専門的な用語で、『行為の結果を判断するに足りるだけの精神的能力』のことだと考えられています。

契約を結んだときに、意思能力があったと認められれば、契約は有効になります。逆に意思能力がなければ、契約は無効となります。無効の場合は、請負代金の請求ができなくなります」

意思能力があるかないかは、どうやって判断されるのだろうか?

「そこはケースバイケースです。実際のところ、認知症の人の判断能力はさまざまで、意思能力があるかどうかの判断は困難です。

また、もし、依頼者が『成年後見人』のサポートを受けていたようなケースだと、契約が取り消されてしまうことも考えられます」

●タダ働きになってしまうのか?

もし契約が無効だと判断されたり、取り消されてしまった場合、Tさんはタダ働きになってしまうのだろうか?

「それは大丈夫です。

依頼主は、法律上の原因なく、庭の手入れを受け及び門の修理を受けるという利益を得ています。

そうした利益のことを『不当利得』といい、Tさんは依頼主に対して、『不当利得を返還して』という請求(民法703条)ができます」

ところで、認知症の人を相手に、訴訟ができるのだろうか?

「それも大丈夫です。実際のところ、相手の代理人を選定してもらって、その人を相手に裁判をすることになります」

このように、山下弁護士は話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

山下 茂
山下 茂(やました しげる)弁護士 山下法律事務所
埼玉県東松山市で勤務弁護士4人とともに地域のあらゆる事件に対応し、地域住民に誠実・適切な法的サービスを提供中。21年間の弁護士生活のなかで、家裁の調停委員、人権擁護委員などを歴任し、膨大な相続、離婚、破産、消費者事件等の相談及び訴訟事件をこなす。

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