全国の児童相談所に寄せられた「児童虐待」の相談対応件数について、2013年度は過去最高の約7万4000件だったことが、厚生労働省の集計でわかった。
増加した要因は、厚労省によると、社会的意識の高まりによって相談や通報の件数が増えたことが大きい。加えて昨年、「心理的虐待」の定義をよりハッキリさせ、「きょうだいが親に暴力を振るわれる場面を目撃した子どもは、心理的虐待の被害者だ」と、現場に通知したこともあるという。
この「心理的虐待」とは、いったいどういうものなのだろうか。児童虐待問題に取り組む榎本清弁護士に聞いた。
●悪影響は身体的虐待と変わらない
「児童虐待における心理的虐待とは、児童に著しい心理的外傷を与える行為を指します。具体的に挙げると、次のような行為です。
(1)言葉による脅かし、脅迫
(2)子どもを無視したり、拒否的な態度を示すこと
(3)子どもの心を傷つけるようなことを繰り返し言うこと
(4)子どもの自尊心を傷つけるようなことを言うこと
(5)他の兄弟とは著しく差別的な取扱いをすること
(6)子どもの面前で配偶者やその他の家族などに対し暴力をふるうこと」
心理的虐待の被害者は、直接、殴る蹴るの暴力を受けるわけではない。しかしそれゆえに、身体的虐待とはちがう問題点が生じるのだと、榎本弁護士は指摘する。
「心理的虐待は、身体的虐待と変わらないぐらい、大きな影響を子どもたちに及ぼしますが、ケガなどの痕跡が残らないため、警察等で把握しにくいという問題があります。
さらに、心理的虐待については、そもそも犯罪が成立しないという見解もあり、検挙されるまでに至らないケースも多いようです。
しかし、『虐待』の内容が犯罪類型に該当して、かつ、それが教育に必要なしつけの範囲を超えているような場合は、犯罪が成立すると考えるべきでしょう」
●検挙数も増加している
「心理的虐待」は具体的に、どのような罪に問われる可能性があるのだろうか。
「たとえば、脅迫罪や強要罪、さらには、心理的虐待によって児童がPTSD等の精神的障害を生じた場合には、『無形力の行使』による傷害罪も成立する可能性があります」
この「無形力の行使による傷害」とは、物理的な力ではなく、言葉での脅しなどによって、子どもに精神的な傷害を負わせることだ。
榎本弁護士は「心理的虐待の検挙件数は、平成22年までは0件でした。しかし平成23年に1件、平成25年には16件と、検挙件数は確実に増えています」と警鐘を鳴らしていた。