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「速やかな再審開始を」袴田事件・西嶋勝彦弁護団長が語る再審への「長い道のり」
「袴田事件」弁護団長の西嶋勝彦弁護士(右)と袴田巌さんの姉・秀子さん

「速やかな再審開始を」袴田事件・西嶋勝彦弁護団長が語る再審への「長い道のり」

1966年に起きた「袴田事件」で死刑判決を受けた袴田巌さん(78)が今年3月に釈放されたニュースは、大きく全国を駆け巡った。だが、袴田さんはまだ正式に「再審無罪」とされたわけではない。

静岡地裁が3月に出したのは「袴田事件」の再審を始めるという決定にすぎない。しかも、それに対して検察側が即時抗告をしたため、実際には、まだ再審が始まるかどうかも決まっていない状況なのだ。

1980年の死刑判決確定を受けて、81年から2008年に棄却されるまで争われた第1次再審請求。さらに08年からいまも続いている第2次再審請求。2つを合わせると再審請求が争われている期間だけでも、すでに30年以上となっている。

そんななか、袴田さんの弁護団長を務める西嶋勝彦弁護士らは4月9日、東京都内で記者会見をおこない、検察の即時抗告を「全く不当」として、速やかに再審を開始するように訴えた。

●日本の「再審」は2つの手続きに分かれている

そもそも日本の再審制度はどうなっているのか――。西嶋弁護士は会見で、その話から切り出した。

「日本の再審制度は第1段階の『再審請求』と、それを受けた第2段階の『再審公判』という、2つの手続きに分かれています」

つまり、裁判をやり直してもらうためには、まず、裁判所に「再審請求」をおこない、それを認めてもらう必要があるのだ。西嶋弁護士はこの点について、「日本の再審制度では、有罪を言い渡した裁判所と同じ裁判所に対して、再審請求の申立てをするという手続きになっていて、これが再審へのひとつの障害となっています」と指摘する。

それでは、再審の条件の一つとされる「新証拠」とは、どのようなものなのだろうか。

「再審請求のためには、無罪となることが明白な新証拠を提出しなさいと要求されます。この制約は『白鳥決定』と呼ばれる最高裁の決定によって、いくらかハードルが下げられましたが、それでもなかなか高い壁です」

また、今回は検察が「しぶしぶながら」(西嶋弁護士)証拠を一部開示したが、日本では検察側が手元に持っている証拠について、弁護側に開示請求する権利がないことが、再審を阻む大きな壁となっているという。

●再審開始決定の理由は「DNA」だけではない

このように再審決定基準を説明したうえで、西嶋弁護士は、静岡地裁の判断について次のように述べた。

「開始決定は、袴田さんのDNAが『5点の衣類』から検出できなかったことが、大きなポイントです」

ここでいう5点の衣類とは、事件発生から1年2カ月後に、現場の味噌タンクの中から見つかった「血染めの衣類」のことで、死刑判決の決め手のひとつだった。技術の進歩をうけて、再審請求であらためて実施したDNA鑑定によって、この証拠が大きく揺らいだのだ。

この鑑定について、検察側は「証拠が古く判定は不可能」と主張しているが、西嶋弁護士は「再審開始決定の理由は、DNA鑑定だけではありません。弁護側の実験結果も高く評価されています」と反論する。

当時の捜査では5点の着衣は1年以上味噌に漬かっていたとされていたため、弁護側は同様の衣類を味噌タンクに漬けるという実験を行った。すると、1年以上味噌に漬かった衣類の色等は、裁判に証拠として提出されたものとかなり状態が異なっていたのだという。

「静岡地裁の決定は、この『着衣の色』について、常識的な判断を下しました。事件から1年後、裁判の途中で発見された衣類が、本当に1年間漬かっていたのか、それとも発見直前にタンクに入れられたのか、これは色を見ればわかるではないかと言っているわけです。

こうした不自然な証拠がたくさん現れている、これはなぜだろうか、と判断を進めたうえで、地裁の決定は『ねつ造としか考えられない』と言い切っています。しかも、ねつ造ができるのは捜査機関をおいて他にはないと思われる、というところまで断言しています。

また、5点の衣類以外の証拠についても、そのような観点から厳密に検討する必要があるといって、全ての証拠について検討を加えているわけです」

●再審開始前の「死刑囚の釈放」は画期的

静岡地裁はこうして再審開始を決めると同時に、「死刑囚を釈放する」という重い決断も下した。

「これまで死刑囚が再審請求審の段階で釈放されることはなく、釈放は再審公判で無罪判決が出てからとなっていました。これは画期的な決断です。

釈放の理由について、決定は次のように言っています。

『警察が人権を顧みることなく袴田を犯人として厳しく追及した。無実の個人を45年以上にわたって、拘束し続けたことは、刑事司法の理念からはとうてい耐えがたい。拘置をこれ以上継続することは、耐えがたいほど、正義に反する』

私はこれらの表現の中に、これまでの先輩裁判官が犯してきた誤りを正し、司法に正義を取り戻すという強い決意が込められていると思います」

静岡地裁の決定ではここまで断言されたわけだが、検察の即時抗告を受けて、現時点での審理の場は東京高裁に移っている。場合によっては最高裁へもつれ込む可能性もあり、結論までにはまだ、さらに時間がかかりそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

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