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芸能人を特定できるようなイニシャルトークは名誉毀損になるのか

芸能人を特定できるようなイニシャルトークは名誉毀損になるのか

学生のいじめ問題に関する報道が後を絶たない。今年7月には、滋賀県大津市の市立中学校で起きたいじめ問題の加害者とされる生徒の名前がテレビに映された騒動があったが、また別の学校でのいじめ問題の報道にて、今度は芸能人のイニシャルトークが展開され、物議を醸している。

複数の一般誌が報道した情報によると、今年5月、有名私立中学校で壮絶な少女暴行事件が起こったが、その主犯格が有名女優の娘なのだという。マスコミの取り上げ方は、「スクールドラマで校長兼理事長役を演じているKさん」などとあからさまで、その記事を読めば、その「女優」が誰を指しているか一目瞭然といっても過言ではない。

イニシャルトークと呼ばれるこの手法は、兼ねてから芸能報道で利用されやすいものである。しかし、今回のようなデリケートな問題で使用されるのは問題ないのだろうか。もし、当該女優がこれら一連の報道を不服とした場合、名誉毀損罪が成立する可能性はあるのだろうか。人間関係のトラブルに詳しく、法律情報番組でもお馴染みの丸山和也弁護士に話を聞いた。

●誰だかわからないイニシャルトークの場合は、名誉毀損罪は成立しない

「名誉毀損罪が成立するには、社会における評価を下げる事実を、不特定または多数の者に対して表現することが必要となります。イニシャルであるため誰だか分からないような記事の場合は、特定の人の社会的評価が下げられたとはいえず、名誉毀損罪は成立しないことになりそうです。」

●前後の文脈などから本人が特定可能な場合は、名誉毀損罪が成立する

「しかし、仮にイニシャルトークであっても、前後の文脈などから、イニシャルだけで誰であるかが特定可能な場合があります。そのような場合、例えイニシャルトークでも、実名を公表するのと同様に社会的評価を下げることになります。」

「実際に、タレントの岡田美里さんがバラエティ番組において叶姉妹のことをイニシャルトークで名誉毀損した行為について、裁判例は、『イニシャルトークでも視聴者は誰であるか特定可能であり、名誉毀損罪は成立する』としています。」

●今回の問題では

「今回の問題は、とある有名私立中学校で少女暴行事件が起こり、その主犯格が『スクールドラマで校長兼理事長役を演じているKさん』の娘であったという記事なので、Kさんが誰であるかについて読者は特定可能でしょう。よって、このようにデリケートな内容の記事を書かれたKさんとその娘さんが告訴をすれば、記事を書いた側に名誉毀損罪が成立する可能性があります。」

いじめ問題に限らず、芸能人が関係者とされる事件の場合は注目を集めることができるため、実名を出せずイニシャルトークとなる場合でもマスコミはこぞって取り上げようとするが、行き過ぎて本人が特定されるような報じ方をしてしまえば名誉毀損になりうるということだ。

芸能人は一般人に比べて影響力が強いため、事件性が強い内容ほど、社会問題として報道される必要はあるかもしれないが、名誉毀損の問題だけでなく、マスコミの取り上げ方次第では関係者の特定につながり、それは加害者だけでなく被害者にもダメージが生じる可能性があるということも忘れないでほしい。

(弁護士ドットコムニュース)

※本記事は情報サイト『Business Journal』との共同企画です。

プロフィール

丸山 和也
丸山 和也(まるやま かずや)弁護士 弁護士法人丸山総合法律事務所
1946年、兵庫県生まれ。73年に弁護士登録(東京弁護士会)。78年にワシントン大学ロースクール卒業。弁護士活動のかたわら、テレビなどで幅広く活躍。「行列のできる法律相談所」で人気を博した他、「24時間テレビ」で100kmマラソンを完走した。2007年から現在まで参議院議員(全国比例)を務めている。

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