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佐村河内さんが「新垣さんを名誉毀損で訴える」 裁判になったときのポイントは?
記者会見で「耳に関して、新垣さんがウソをついている」と主張した佐村河内守さん

佐村河内さんが「新垣さんを名誉毀損で訴える」 裁判になったときのポイントは?

「現代のベートーベン」と呼ばれながら、実は自分で作曲をしていなかったことが判明した佐村河内守(さむらごうち・まもる)さんが3月7日、東京都内のホテルで記者会見を開いた。トレードマークの長髪をバッサリ切って登場した佐村河内さんは「本当に申し訳ございませんでした」と述べ、これまで世間をあざむいていたことを謝罪した。

しかし、ゴーストライターだった音楽家・新垣隆さんの発言について「ウソを言っている」と反論し、「新垣さんらを名誉毀損で訴えます」と語った。佐村河内さんは、「耳に関することで、新垣さんはすべてウソを言っている。科学的にありえない」などと主張。新垣さんに名誉を毀損されたとして、裁判を起こす意向であることを明らかにした。

ただ、佐村河内さんは、新垣さんがゴーストライターを務めていたこと自体は認めている。つまり、新垣さんの発言のすべてが間違っているというわけでなく、部分的に誤りがあるという主張のようだ。そのように発言の一部が事実と異なるという場合でも、名誉毀損は成立するのだろうか。裁判になったときのポイントについて、秋山直人弁護士に聞いた。

●佐村河内さんの「社会的評価」はさらに低下したか?

「今回、佐村河内さんは、ゴーストライターの存在自体は認めています。しかし、新垣さんの発言のうち、『初めて彼と会ったときから今まで、耳が聞こえないと感じたことは一度もない』『私が録音したものを彼が聞き、コメントすることが何度もあった』といった部分は事実でなく、名誉毀損だと主張しているようです」

このように秋山弁護士は切り出した。はたして新垣さんの発言は、名誉毀損にあたるのだろうか。

「この新垣さんの発言は、『佐村河内さんが、実際には普通に耳が聞こえるのに、聞こえないふりをしていた』という印象を聞いた人に与えるもので、佐村河内さんの社会的評価を低下させるものといえます。

この点、ゴーストライターが作曲していたことが公表されたことで、佐村河内さんの社会的評価はすでに低下しています。しかし、そのことを踏まえたとしても、さらに社会的評価を低下させるものといえるでしょう」

●社会的評価を低下させても「名誉毀損」が成立しない場合

ただ、聴力に関して、佐村河内さん自身も、全聾(ぜんろう)でなかったことを認めている。現在も難聴であるとしながら、障害者手帳を返納したことを明らかにした。その点は、どう考えればいいのか。

「実際には全聾ではないのに全聾のふりをしていたという点は、佐村河内さんも認めているといえます。それに加えて、さきほどの新垣さんの発言によって、佐村河内さんの社会的評価がどれほど低下したといえるのかが、問題となります。

その判断は微妙でしょうが、私は、新垣さんの『耳が聞こえないと感じたことは一度もない』などといった発言によって、社会的評価の低下の程度がより大きくなったのではないかと考えます」

そうすると、名誉毀損が成立する可能性があるということだろうか。

「名誉毀損について、判例では、たとえ他人の社会的評価を低下させる表現行為だったとしても、次のような条件が認められれば、違法にはならない(不法行為が成立しない)とされています。

(1)公共の利害に関する事実にかかり、もっぱら公益を図る目的であった場合で、

(2)指摘された事実が真実であることの証明がなされるか、

(3)そうでなくとも、真実と信じたことに相当の理由があること」

では、佐村河内さんが宣言通り、新垣さんらに訴訟を起こした場合、どこがポイントになるのだろう。

「まず、(1)の公共性・公益性については、認められると思われます。そのうえで、『耳が聞こえないと感じたことは一度もない(つまり、耳が聞こえていた)』『私が録音したものを彼が聞き、コメントすることが何度もあった』といった新垣さんの発言について、(2)真実性や(3)真実相当性が争われるのではないか、と予想します」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

秋山 直人
秋山 直人(あきやま なおと)弁護士 秋山法律事務所
東京大学法学部卒業。2001年に弁護士登録。所属事務所は四谷にあり、不動産関連トラブルを中心に業務を行っている。

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