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国会でようやく承認された「障害者権利条約」 障害をもつ人の生活はどう変わるか?
障害者権利条約の批准で、障害を持つ人たちの生活はどう変わるのだろうか

国会でようやく承認された「障害者権利条約」 障害をもつ人の生活はどう変わるか?

特定秘密保護法案をめぐって与野党が激しく対立した昨年の臨時国会。秘密保護法が成立した12月6日の2日前、ある条約があまり注目されないまま承認された。その名は「障害者権利条約」。障害者への差別を禁止し、基本的人権の尊重などをうたった意義深い内容だ。

同条約は2006年に国連が採択、08年に発効した。すでに137カ国と欧州連合(EU)が批准(ひじゅん)しているが、日本は、国連で採択されてから批准(本年1月頃の予定)まで7年あまりを費やすことになった。障害者差別を禁じる法律が日本にないことを国連から指摘され、政府が批准の前に国内の法整備を迫られたためだ。

2013年の通常国会で、改正障害者雇用促進法と障害者差別解消法が成立(両方とも16年4月1日施行予定)。遅ればせながら、ようやく批准に向けた環境が整備されることになったのだ。

この2つの法律の成立と条約の批准で、障害を持つ人たちの生活はどう変わるのだろうか。また、法律や条約で課題は解消されるのだろうか。「働く障害者の弁護団」代表をつとめる清水建夫弁護士に聞いた。

●簡単に取り除ける障壁を放置すれば、それも「差別」となる

「障害者権利条約は、障害を理由とするあらゆる区別・排除・制限を、あらゆる分野で禁止する内容です。

条約のポイントは、障害がある人の前に立ちはだかる『社会的障壁』について、それを除去するための合理的な配慮をしないことも『差別』であると明記していることです。言い換えれば、少しの負担で取り除ける社会的障壁を『放置』することも、差別だということです。ただし、均衡を失した又は過度の負担を課さないとしています。

この条約を批准することで、障害のある人は、条約にもとづく法的権利として、差別をなくし、社会的障壁をなくすよう、誰に対しても要求できるようになります」

社会的障壁を取り除くための合理的な配慮とは、どんなものなのだろうか?

「たとえば、小さな会社のオフィスが、ビルの2階にあるとします。その会社に就職を希望する車いすの方が、『私はエレベーターがないと働けない。エレベーターをつけないのは差別だ』と言ったとします。

これは社会的障壁ですから、その会社にとって過度な負担にならない程度の合理的な配慮で対応できるなら、そうすべきです。

しかし、法律や条約はある意味で常識的なところがあり、『それはちょっと無茶だよな』というところまでは求めていません。小さな会社で、エレベーターを設置するのは不可能だという場合、法律的には、そこまでの義務は課さないということです」

●雇用の分野における「障害者差別」が禁止された

では、条約批准に先だって動きがあった2つの法律は、どんなものだったのだろうか。

「障害者雇用促進法には、雇用に関して、条約の内容を実現するような『差別禁止条項』が入りました。たとえば障害を理由に採用しないなど、雇用の分野における障害者差別が禁止されたのです。

また、障害者を雇用する事業主や国・地方公共団体の任命権者は、車いすに合わせて机や作業台の高さを調整するなど、それぞれの障害の特性に応じた必要な措置を講じなければならないとされました」

もう一つの障害者差別解消法についてはどうだろうか?

「こちらは、雇用以外の分野について、障害者差別禁止を定めた法律です。

この法律でも、『社会的障壁を除去するための合理的な配慮』が義務付けられていますが、民間事業者の場合は『努力義務』とされ、一歩後退したものになっているのは残念です。

ただし、民間事業者が社会的障壁の除去に適切に対応しないときは、主務大臣が指導・勧告できることになっています。今後は、適切な対応がなされない場合、主務大臣に対して指導や勧告を求めていくことになるでしょう」

●国内法の整備は道半ばだが「全体としては進んでいる」

日本もようやく条約批准という段階までこぎつけたわけだが、これで十分と言えるのだろうか?

「法改正や条約批准によって、障害者が差別禁止や合理的配慮を『法的権利』として求められるようになった意義は大きいでしょう。

国内法の整備はまだまだ不十分で道半ばですが、それでも、全体としては一歩前進といえます。障害者の方々を支援する立場の弁護士としては、進んだ点を活用し、『合理的配慮』をどんどん広げていくべきだと考えています」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

清水 建夫
清水 建夫(しみず たてお)弁護士 清水・新垣法律事務所
働く障害者の弁護団代表。働くうつの人のための弁護団代表。NPO法人障害児・者人権ネットワーク理事。

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