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学生時代にいじめを受けた人は、卒業後に加害者に慰謝料請求などが可能か

学生時代にいじめを受けた人は、卒業後に加害者に慰謝料請求などが可能か

大変痛ましいことであるが、深刻ないじめに関する報道が相次いでいる。
 
滋賀県大津市の中学校で起きたいじめ事件をはじめ、宮城県仙台市の高校で男子生徒が火のついたたばこをおよそ20ヶ所も腕に押しつけられた事件など、あまりに悲惨なその内容に、怒りを覚え、心を痛めている人は多いだろう。
 
いじめは程度の差はあれど、上記の学校に限らず全国の学校で起こりうることであり、特に精神的に未発達な小学生、中学生の期間においては、いじめを受けた経験がある人は少なくないのではないだろうか。
 
世の中にはいじめを乗り越えて立派に生きている人や、いじめを受けた経験をばねに奮起して成功を収めた芸能人やスポーツ選手、経営者などもいるが、その一方で、いじめを受けた経験により、肉体的な後遺症に苦しんだり、人間不信に陥ったり他者との接し方がわからなくなるなど、人格形成に深刻な悪影響を受けてしまった人もいる。
 
悲しいことであるが、学校を卒業してから何年も経ち、いじめの加害者はいじめていたことを気にすることなく生活していても、いじめの被害者は受けた苦しみを忘れられずにいるようなケースも存在するのだ。
 
それでは、学生時代に受けたいじめの後遺症に苦しむ人は、卒業後も加害者に対して慰謝料請求などを求めることが可能なのだろうか。本橋一樹弁護士に話を聞いた。
 
●時効は3年間 通常、加害者が未成年の場合は保護者や学校へも請求
 
「もちろん、卒業後も加害者に対する慰謝料請求は可能です(加害者本人に責任能力が認められるは12~13歳以上と言われておりますので、本稿では中学生以上の事件を前提とします)。むしろ、卒業後に訴えを提起するケースの方が多いのではないかと思われます。」
 
「もっとも、いじめを理由とする加害者に対する慰謝料請求は民法上の不法行為(民法709条)を根拠とするため、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間(被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから3年間。民法724条)が経過する前に慰謝料請求をする必要があります。」
 
「従って、加害者本人がまだ未成年であるうちに訴え提起をしなければならない場合も多いでしょう。この場合、加害者本人には実質的に賠償能力がないので、加害者本人のみならず保護者や地方公共団体または学校(私立の場合)に対しても慰謝料請求をするのが通常です。」
 
●いじめが不法行為として成立するための条件は
 
「それでは、どのような場合に、いじめが違法性を帯びて不法行為が成立するのでしょうか。この点について、『外形的にいわゆるいじめというような行為があったとしても、加害者との関係では直ちに不法行為が成立するほどの違法性があったことにはならず、軽微ならざる加害行為を行なった場合や、被害者が明確に拒否しているにもかかわらず執拗に加害行為を継続している場合、保護者や教師から厳格な注意を受けたにもかかわらず依然として注意に背き加害行為を行なったなど、加害行為が相当程度強いときに不法行為が成立する実質的な違法性がある』と判示したもの(さいたま地判平成20年5月30日)、『その態様が児童同士のふざけあいとみなし得る範囲を大きく逸脱し、執拗で悪質な行為であるといわざるを得ない(不法行為認定)』(金沢地判平成8年10月25日)と判示したものなどがあります。」
 
●いじめの事実と、損害との因果関係の立証が必要になる
 
「実際には、裁判所において、不法行為としてのいじめが認められるためのハードルは低くはなく、さらに大変なのは、いじめの事実と、いじめと損害との因果関係の立証と言えましょう。」
 
「なお、前記の金沢地裁の事件は、約20分間にわたって被害者一人に対し10名以上の児童が代わる代わる連続的に共同の暴行行為を行い、被害者が約半年間、不登校状態になったという事案ですが、認められた慰謝料額は40万円、その控訴審である名古屋高裁金沢支部での判決では、増額はされたものの認容額は60万円でした。」
 
本橋弁護士の解説の通り、裁判ではいじめの事実などの立証が必要になるので、暴行を受けた際の病院の診断書など、少しでも証拠になるようなものがあれば、保管しておいた方が良いだろう。
 
いじめの被害にあったのが中学生や高校生だと、まだ本人は法的に訴えるという考えには至らないかもしれず、また裁判によって全てが解決するわけではないかもしれないが、いま学校でいじめを受けている人はもちろん、卒業後もいじめを受けたことで苦しみ続けている人には、法的な対応も可能だということを知っていただきたい。
 

プロフィール

本橋 一樹
本橋 一樹(もとはし かずき)弁護士 本橋一樹法律事務所
1962年、東京都世田谷区生まれ。94年に弁護士登録(東京弁護士会)。東京を拠点に活動。2004年から2008年にかけて、非常勤裁判官(民事調停官)を務める。得意案件は離婚、遺産相続、消費者被害、建築紛争など。趣味は時代劇やオーディオ。

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