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身近で激増する「精神科医療」ビジネスの裏側…薬漬けにされる子ども、同意なき強制入院
西前啓子弁護士(2021年9月8日/東京都内/弁護士ドットコム撮影)

身近で激増する「精神科医療」ビジネスの裏側…薬漬けにされる子ども、同意なき強制入院

近年、増え続けている「メンタルクリニック」。「精神科」という呼び名よりも敷居が低く、身近となったことにより、こころの悩みを気軽に相談できる印象を抱くかもしれない。

しかし、こころの健康の回復を求めて受診したクリニックなどで、思わぬ「被害」に遭ったと訴えている人たちがいる。

いったい、どのようなトラブルが起きているのか。防ぐことはできないのか。精神科医療の問題を指摘している西前啓子弁護士と小倉謙さん(「市民の人権擁護の会(CCHR)」日本支部・支部長)に話を聞いた。

●「メンタルクリニック」は「精神科」と変わらない?

そもそも、街中で見かける「メンタルクリニック」や「心療内科」は「精神科」とどう違うのだろうか。

実は、日本の医療では、麻酔科を除いて、医師が自由に分野を掲げることができる「自由標榜制」がとられている。病院のサイトなどでの説明をみると、心療内科は、心理的な原因で生じた身体の不調をみる、精神科は心の病気を扱う、といった違いを説明しているケースもあるが、どちらを名乗るのかは、医師任せになっているのが現状だ。

小倉さんは、次のように説明する。

「1980年代に精神科病院(入院施設がある精神科の病院)での虐待が相次ぎイメージが悪くなったこと、そして2000年にはうつ病キャンペーンによる精神科開業ブームが訪れたため、町にクリニックがたくさん作られるようになりました。

『精神科』と名乗ることでイメージが悪くなる懸念から、『心療内科』と名乗っている病院もあります。また、『メンタルクリニック』などと看板に掲げている病院もありますが、名称が違うのみで、おこなっている内容は『精神科』と変わりません」(小倉さん)

画像タイトル 写真はイメージです(Graphs / PIXTA)

「メンタルクリニック」などの病院は増加傾向にあり、医師の数も増えている。ニッセイ基礎研究所の資料(2018年)によると、主たる診療科を「精神科」または「心療内科」としている医師の数は1994年から年々増え続け、2016年時点で約1.5倍に増加。また、主たる診療科を「精神科」「心療内科」「神経科」とする一般診療所も1996年から増加し、2014年は約3倍近くの数になっている。

かつては、ネガティブなイメージもあった精神科医療が、近年は名称の変化やクリニックの増加によって身近なものとなりつつある。そこでは、処方薬への依存が比較的身近な問題として指摘されているが、中には犯罪行為に発展するようなケースもあるという。

●5年間で「虐待の疑い」は72件…性暴力も

いったい、どのようなトラブルが起きているのか。

2020年7月には、報徳会宇都宮病院(栃木県宇都宮市)で入院患者に不適切な医療行為がおこなわれているとして、元嘱託医が行政指導を求める申出書を厚生労働省と県、市に提出したことが報じられた。

また、同じ年に「神出病院」(兵庫県神戸市)で元看護師など6人が入院患者を虐待したとして、準強制わいせつや暴行、監禁などで起訴され、有罪判決を受けている。元看護師など6人は、患者に無理やり性的な行為をさせたり、トイレで水をかけたりしたほか、虐待の動画を撮影してLINEで共有するなどしていたとされる。

事件を受けて、厚生労働省は自治体を対象に調査を実施。厚生労働省の担当者によると、精神科の医療機関で患者への虐待疑いの事例が2015〜2019年度の5年間で72件あったという。しかし、小倉さんは「これらの虐待は通報で発覚したわけではなく、患者、家族、元スタッフに聞き取りをしてわかったこと。氷山の一角に過ぎない」と指摘する。

「一般企業や介護施設で虐待が起きれば、すぐに明るみになり、大々的に報道される可能性があります。しかし、医療の中でおこなわれると、表に出にくく、うやむやにされてしまいがちです。実際に、私のもとにも『精神科で(医師などに)殴られた』『罵声を浴びせられた』などの相談が届くことがあります」(小倉さん)

画像タイトル 小倉謙さん(2021年9月8日/東京都内/弁護士ドットコム撮影)

虐待が起きているのは、入院施設がある精神科病院だけではない。街中にあるクリニックでも、性暴力被害などに遭っている患者がいる。

2018年には、東京・港区にある精神科クリニックの院長が診察中の女性患者にキスをしたなどとして、強制わいせつの疑いで逮捕された。同医師は、過去にほかの女性患者に対するわいせつ事件を起こしていたとされる。

西前弁護士によると、性暴力をおこなった医師について情報開示請求をおこなうと、ほかにも複数の性的暴行をおこなっていた事実がみてとれることがあるという。

「医師は、診療・治療の名のもとに、患者のプライベートを聞き出したり、薬物を使ったりすることも自在です。計画的に、患者を自分に依存するように仕向ける傾向も見受けられます。すべての性犯罪に共通することですが、被害者は声を上げることができず、誰にも相談できない状況に追い込まれていることが少なくありません」(西前弁護士)

画像タイトル 西前啓子弁護士(2021年9月8日/東京都内/弁護士ドットコム撮影)

●家族が同意すれば、強制入院させられてしまう可能性も

さらに、西前弁護士は「医療保護入院の制度が悪用されることもある」と語る。

医療保護入院は、本人が同意していなくても、医師の診察と家族など1人の同意があれば、入院させることができるという制度。入院を必要とするものの、任意入院が困難な人が対象となる。しかし、簡単に家族が同意したり、医師が診断したりすることで、本来入院が必要ない人まで強制入院させられている現状があるという。

「離婚を優位に進めたり、相続を得たりするための手段として、家族が入院に同意し、もめ事で感情的になることはあったかもしれませんが、まったく精神疾患がないと思われる人が入院させられてしまうケースもあります。その後、疾患がないにもかかわらず飲まされる向精神薬の副作用で体調が悪くなり、入院が長引いた挙句に亡くなってしまった方もいます」(西前弁護士)

●なぜ精神医療で問題が起きてしまうのか

なぜ、精神科医療の現場で虐待や不適切な医療行為などが起きているのか。西前弁護士は、要因の1つとして、精神科医療の「ビジネス化」を挙げる。

「日本の精神科病院の約8割は民間病院(私立の病院)です。精神科医や病院数も増え、問題がある医師が流れ込んでいるようにみえますし、作った病床を埋めようとする経営努力から、患者の命や尊厳を軽視した行き過ぎたビジネス化が進んでいると感じます。業界全体をみても、今や範囲を子どもにまで広げ、子どもたちに『発達障害』と診断をつけて、投薬をおこなうようになってきている背景にあるのは、いわゆるマーケット戦略に思えます。未来を担う子どもたちが、小さいころから薬漬けにされてしまう現状に危機感を感じています」 (西前弁護士)

一方で、小倉さんは、「精神医療が治外法権になっているのではないか」と語る。

「たとえば、外科手術のように、病気(癌など)や回復の度合いについて見えやすい分野と比較すると、精神医療はかなり見えにくい部分があります。そのため、診断根拠も治癒根拠も医師の主観で決められるため、問題があっても医師の都合の良い解釈がまかり通るため、法の網をくぐりぬけることとなっています。

さらに、精神医学は治療というよりも保安という目的で発展してきたという歴史があります。もともと、精神障害の人は危険人物だとみなされ、保安のために隔離されてきました。そういった歴史的背景もあって、患者の人権を考えない医師が出てしまうのではないか、とみています」

西前弁護士と小倉さんが把握しているのみで、多岐にわたるトラブルがあるという。このような精神科医療におけるトラブルを救済するための手段はないのだろうか。

「精神医療審査会」では、患者の声はほぼ届かず…

患者が「処遇を改善してほしい」「病院を退院したい」などと訴える機関としては、精神科医や精神保健福祉士、弁護士などで構成される「精神医療審査会」がある。精神保健福祉法に基づき、患者の処遇などを審査するために各都道府県に設置されているものだ。

しかし、小倉さんは、「精神医療審査会は形骸化している」と指摘する。

「強制入院に関しては、入院時の審査や定期的な審査が法律上求められてはいるものの、膨大な数があり、ほぼ書類チェックのみで審査が終わってしまいます。審査会の委員などが患者に直接会うこともほとんどありません。入院後の退院請求や処遇改善請求についても、申し立てができる患者は非常に少なく、たとえ申し立てたとしても退院や処遇改善が認められることはほとんどありません」(小倉さん)

厚生労働省の資料によると、精神医療審査会に申し立てられた退院請求、処遇請求に対して「入院または処遇は不適当」とする審査結果の割合は毎年、審査結果数の10%以下となっている(2008年〜2014年まで)。処遇の改善や退院したい旨を訴えたとしても、9割以上は認められないということだ。

画像タイトル 申し立ての現状(厚生労働省の資料を参考に作成)

医療保護入院となった場合に解除を申し立てた場合も、「入院継続不要」とされるのは毎年わずか数件で、ほとんど認められることはない(2008年〜2014年まで)。

「障害者虐待防止法」は「医療機関の人たちは虐待しない」ことが前提

また、虐待を防止するための法律としては「障害者虐待防止法(障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律)」がある。しかし、この法律では、精神科病院などの医療機関は通報義務等の対象とされておらず、自主的に防止措置をとることが求められているのみだ。

小倉さんは「そもそも同法が精神科病院内での虐待が起きたことを受けて作られた法律であるにも関わらず、精神科病院がその対象から外された経緯がある」と現行法に疑問を抱いている。

日弁連も精神科医療での虐待や障害者虐待防止法のあり方を問題視。精神科病院などの医療機関を通報義務等の適用対象とするよう、法改正を求めて、2020年4月に声明を公表している。

●「医療行為が免罪符になってはならない」

精神科医療の現場には、患者の回復のために何ができるのかを日々模索している医師や看護師たちもいる。しかし一方で、病院内の実態は可視化されにくく、「数字」にあらわれていない虐待や不適切な医療行為などがあることも事実だ。

小倉さんは、次のように訴える。

「入口・出口政策を考えるとともに、患者が救済される道を整える必要があります。患者の生命や財産が脅かされることがないように、法規制をおこなうなど、障害者虐待防止法や刑法、精神保健福祉法などの改正によって、精神医療を衆人環視の下に置く仕組みをつくりたい。医療行為が免罪符になってはならない」(小倉さん)

【取材協力】

西前啓子弁護士
第二東京弁護士会。隼町法律事務所。京都大学法学部卒。大手渉外事務所に入所するも、精神的な問題により1年足らずで退所。ダイビングインストラクター、商社法務、主婦、セラピストを経て、弁護士に復帰。市民の人権擁護の会の米田倫康氏の著書「もう一回やり直したい」「発達障害のウソ」の出版記念講演を機に、精神医療問題に足を踏み入れることになる。

小倉謙さん
「市民の人権擁護の会」日本支部・支部長。1968年、川崎市出身。2003年より米国・ロサンゼルスに本部を置く精神医療監視団体、市民の人権擁護の会(略称:CCHR)日本支部の活動に参加。以来、精神医療領域に於ける人権侵害、不当な治療、不正行為などの調査・摘発を行う傍ら、全国で精力的に講演活動などをおこなっている。主な著書に『「心の病」はこうして作られた―精神医学「抑圧」の歴史』(平成出版)、『心の病が治らない本当の理由―精神医学の真実』(平成出版)。

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