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伊香保の人身取引事件でカンボジア女性7人、逆転勝訴「売春は真意じゃない」経営者らに慰謝料700万円の支払い命令 東京高裁
東京高裁(khadoma / PIXTA)

伊香保の人身取引事件でカンボジア女性7人、逆転勝訴「売春は真意じゃない」経営者らに慰謝料700万円の支払い命令 東京高裁

「日本に来れば稼げる」旨の勧誘を受け、来日したところ売春行為を強要されたなどとして、カンボジア人女性7人が、飲食店の経営者ら男女3人に慰謝料などを求めていた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(脇博人裁判長)は4月11日、売春行為は「真意に基づくものではなかった」などとして、計715万円の支払いを命じた。女性たちの代理人によると4月30日の期限までに上告がなく、判決が確定した。

一審・前橋地裁は、賃金未払いがあったことは認めたものの、経営者らが売春を強要していたとまでは認めるに足らないとして、慰謝料の請求は棄却していた。

なお、刑事では人身取引事件として扱われており、被告の男女3人はいずれも出入国管理法違反などで有罪判決を受けている。

●在日カンボジア大使館に保護を求める

判決によると7人は、2016年11月に来日。群馬県渋川市の伊香保温泉にあるA店と沼田市にあるB店とに分かれて働くことになった。

いずれも飲食した客からの指名を受け、A店では2階の個室、B店では近隣のアパートやホテルで売春がおこなわれた。

女性たちには売春1回あたり5000円が支払われていたが、接客の仕事分については渡航費から差し引くとして支払われていなかった。

来日から約1カ月後の同年12月、在日カンボジア大使館にフェイスブックのメッセンジャーで連絡をとり、全員保護された。

●「カンボジアでも売春に従事」分かれた判断

裁判では、売春が強要されたものかどうかが争点になった。

ポイントになったのは女性たちのカンボジアでの仕事。女性たちはもともと工場や美容院、ショッピングモールなどで働いていたが、7人のうち3〜4人は、本人たちが実際に売春にかかわっていたかは定かでないものの、店外に連れ出して性行為等(「おもちかえり」)ができる従業員もいる店としてインターネット上で紹介されるような飲食店で働いていたという。

一審判決はこうした事情などから、来日前に男らが仕事内容を説明したという直接的な証拠はないものの、日本での労働が売春ないしそれに準ずる行為を含むものだと認識していた可能性が排斥できないなどとして、「被告が強要していたとまでは認めるには足りない」と判断した。

これに対し高裁判決は、上述のカンボジアの飲食店で行われていたのは、従業員と客との合意の上での店外での性交渉等であったことに着目し、「売春行為をするか否かを自身で決定できると認識していたとしても不自然ではない」と指摘。そのうえで、「売春を断ったことで、経営者から怒られ、拒否しきれずに売春を余儀なくされた」といった女性たちの証言は信用性が高いと判断した。

在日カンボジア大使館に連絡したことについても、一審は賃金の未払いが契機となっていることから、「強要によるものとは直ちには認めがたい」としたのに対し、二審は直接のきっかけは賃金未払いでも、来日して金銭がなく、他に知り合いもいない状況に置かれていたことが認められるなどと指摘。

そのうえで、威圧的言動または、事前の十分な説明がないまま、売春せざるを得ない状況に置かれたことから売春を余儀なくされていたもので、「真意に基づくものではなかった」と認定した。

女性側代理人の伊藤安奈弁護士は取材に対し、「カンボジアの飲食店で働いていた女性は一部で、その方も売春をしていたという事実も証拠もないのに、一審はそれを重視した判断になっており、先入観・偏見があった。二審はその点を丁寧に判断してくれた」と話している。

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