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漫画村の元運営者「一切払いません」、 巨額の「賠償金」を支払わずに逃げ切れるのか?
本人のX投稿より(4月18日付、https://x.com/romi_hoshino/status/1780843457923395812)

漫画村の元運営者「一切払いません」、 巨額の「賠償金」を支払わずに逃げ切れるのか?

海賊版サイト「漫画村」に漫画を無断転載されたとして、KADOKAWA、集英社、小学館の出版大手3社が漫画村の運営に関わっていたプログラマーの星野路実氏を相手取り、計19億2960万2532円(17作品対象)の損害賠償を求めて共同提訴した訴訟で、東京地裁(杉浦正樹裁判長)は4月18日、計17億3664万2277円の支払いを命じた。

巨額の賠償金となったこの訴訟。星野氏は判決の日に撮影したという動画で、「民事は負けたとしても、ないところからは取れない。だから気が楽です」などと話していた。また、メディアに対しても「判決には納得できないし、まったく反省はしていないです。(判決が確定しても)一切払うつもりはないです」などと語った。

星野氏に対する刑事裁判では、福岡地裁が2021年6月、著作権法違反などの罪で懲役3年、罰金1000万円、追徴金約6200万円の実刑判決を言い渡している。星野氏は刑事裁判について再審請求をしており、追徴金についても「時効になった」として、「こっち(民事裁判の賠償)も逃げ切ろうと思います」とメディアにコメントした。

はたして、刑事裁判の追徴課税や民事裁判の賠償金の回収は、不可能なのだろうか。元刑事というキャリアを持ち、刑事事件にくわしい澤井康生弁護士に聞いた。

●刑事事件で罰金や追徴金を払わないとどうなる?

——今回のように「一切払いません」と言った場合、どうなるのでしょうか

罰金を支払うことができない場合、労役場留置といって、その人を刑務所内の労役場に留置して作業をさせて働かせることになります。いわゆる強制労働ということになります。その場合の単価は1日あたり5000円相当とされており、留置期間は最大でも2年間です。

したがって、上記の限度で労役場留置となる可能性はあります。

追徴金は犯罪によって犯人が利益を得ていた場合にこれを金銭で没収するものです。追徴の命令が出た場合は執行力のある債務名義と同一の効力があるものとされ、その執行は民事執行法その他強制執行の手続きに関する法令に基づいておこなうものとされています(刑事訴訟法490条)。

つまり、追徴命令が民事事件の判決文のような形になるので、差し押さえ可能な財産がある場合は検察官が対象財産を差し押え、換価して追徴金を回収します。ただし、差し押さえ可能な対象財産が何もない場合には執行することはできませんし、追徴には労役場留置のような制度もありませんので、事実上はそこまでということになります。

●民事裁判の賠償金は差し押さえ可能な財産があれば強制執行

——民事裁判で賠償金が確定した場合はどうでしょうか

民事裁判で賠償金が確定したにもかかわらず払わなかった場合、債権者は債務者の財産を調査し、差し押さえ可能な財産があれば、これに強制執行をかけることになります。しかし、差し押え可能な財産がない場合にはそれも難しいということになります。

なお、判決で確定した権利の消滅時効は10年間ですので(民法169条)、債務者において今後10年間の間に財産を築くことができ、債権者側でそれを調査し、特定することができた場合にはその時点で強制執行をかけることができます。

——財産が海外にある場合、日本の裁判所の判決で差し押えなどの強制執行をかけることはできますか

相互保証がとられている英国、ドイツ、米国の一部の州であれば、当該国の裁判所に承認審理を求めて承認してもらい、そのうえで当該国の裁判所に強制執行を申し立てることが必要です。

相互保証がとられていない国の場合には、この方法が取れませんので、日本の裁判所の判決に基づく強制執行をかけることはできません。

どちらにしろ、外国にある財産に対して日本の裁判所の判決文に基づいて強制執行をかけるのは、そう簡単ではないという結論になります。

プロフィール

澤井 康生
澤井 康生(さわい やすお)弁護士 秋法律事務所
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(3等陸佐、少佐相当官)の資格も有する。現在、早稲田大学法学研究科博士後期課程在学中(刑事法専攻)。朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。

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