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私立博多女子中「願書出し忘れ」、学校提案の和解金は「30万円」報道…もし訴訟になったらどうなる?
写真はイメージです(EKAKI / PIXTA)

私立博多女子中「願書出し忘れ」、学校提案の和解金は「30万円」報道…もし訴訟になったらどうなる?

福岡市の私立博多女子中学校で、学校側が願書を提出し忘れて、生徒3人が志望していた公立高校を受験できなかったと報じられています。

報道によると、願書の締め切りが2月16日正午までだったにもかかわらず、担当の教員が日付を勘違いしており、願書を出してなかったそうです。

結局、願書は受け付けてもらえず、学校側は保護者に対して、和解金30万円を提案したとも伝えられています。報道によると、保護者は学校側を提訴する意向を示していますが、実際に訴訟になった場合、どうなるのでしょうか。本間久雄弁護士に聞きました。

⚫︎判例でみると30万円前後の慰謝料

——そもそも学校を提訴することは可能でしょうか。

生徒本人および保護者は、志望校を受験できなかったことで精神的苦痛を受けたとして、慰謝料を求める損害賠償請求訴訟を起こすことができます。

——報道では、「和解金30万円」が提案されたとのことですが、保護者や生徒の精神的苦痛は甚大で、到底納得できない金額だろうと予想されます。訴訟になれば、どれくらいの慰謝料が認められる可能性があるのでしょうか。

もし訴訟となった場合、過去の裁判例の傾向から言って、和解金と同じ「30万円」前後の慰謝料が認められるのではないかと思われます。

今回のケースで参考となる裁判例として、大阪地裁平成16年10月29日判決があります(判例時報1886号87ページ)。

国立大学附属中学校に通学する生徒が、同じ系列の附属高校の推薦基準に達しなかったため、同高校の一般入試を受験しようと中学校の校長に出願書類の作成を求めたものの、中学校校長が出願書類の作成を拒否したため、同高校の一般入試を受験できなかったという事案です。

生徒と両親が慰謝料の支払いを求めて国家賠償請求訴訟を起こしました。大阪地裁の判決は、生徒本人に40万円、両親に5万円ずつの慰謝料を認めました。

ほかに参考となる裁判例として、医学部入試女子差別に関する損害賠償請求訴訟があります。性別等を理由に不利益な扱いを受けていることを知らされずに受験させられ、受験校選択の自由が奪われたとして、受験1回あたり20万円(東京地裁令和4年9月9日判決)、30万円(東京地裁令和4年5月19日判決)の慰謝料が認められました。

ただし、先ほど述べた大阪地裁判決は「高校進学は、その後の人生設計や人格形成に少なからざる影響を与えるものである」と指摘しており、生徒が被った不利益はお金で換算できるものではありません。

願書を提出できなかったことについて、生徒に責任はまったくないのですから、何らかの救済措置が受けられることを願ってやみません。                    

プロフィール

本間 久雄
本間 久雄(ほんま ひさお)弁護士 横浜関内法律事務所
平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。著書に「弁護士実務に効く 判例にみる宗教法人の法律問題」(第一法規)などがある。

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