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「K-POPグループ」脱退裁判、事務所側の賠償請求を棄却…東京地裁
メンバーのAさん(左)と河西弁護士(2023年3月29日/弁護士ドットコム撮影)

「K-POPグループ」脱退裁判、事務所側の賠償請求を棄却…東京地裁

韓国デビューを果たしたK-POPグループ「SKY GIRLS‘」(スカイガールズ)の脱退をめぐり、所属事務所が元メンバー4人全員を相手取り、約1521万円の損害賠償をもとめた訴訟で、東京地裁(布施雄士裁判長)は3月28日、原告の請求を棄却した。

判決翌日の29日、被告となった元メンバーの1人・Aさんと代理人が東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開いた。Aさんは「辞める決断をしてよかった。自分たちの意思を大事に、信じて頑張ってきてよかった」と安堵の表情を浮かべた。

●事務所が1500万円の損害賠償をもとめていた

スカイガールズは2019年11月、ワーナーミュージック・コリアから『ノッテムネ』という曲でデビューした。メンバー4人は2020年7月、専属アーティストマネジメント契約の解消を求めた。

事務所側は2021年4月、契約期間はグループ結成の2017年から10年であり、脱退は契約違反だとして、それまでの活動費や違約金など、約1521万円の損害賠償をもとめる裁判を起こした。

被告・メンバー側は、2020年のコロナ禍で思うような活動ができなくなったうえ、事務所の代表から連日、ビデオ通話や活動報告をもとめられるようになったと反論。

さらに、メンバーの着替えの際も控室から退出しなかったり、急に大声の韓国語で怒鳴ったりしたうえ、「テジ」(豚)「チュグレ?」(死にたいの?)と言われるなどして、強いストレスを感じたと主張していた。

●「メンバーは強固な指揮監督下にあった」と認定された

争点の1つとなったのは、「契約解除」の有効性だ。

被告側は、原告の指揮監督下での活動をしていたとして、契約から1年を経過すればいつでも退職を申し出ることができる「有期労働契約」にあたると主張していた(労働基準法附則137条)。

東京地裁の布施雄士裁判長は「活動により得た収益から経費を差し引いた半額を支払う」という契約内容は、労務に対する対価とは言い難く、これまで売り上げが低く報酬が支払われてこなかったことから「労働契約と評価することは困難である」と判断。

一方で、「メンバーは原告の強固な指揮監督下にあり、任意の諾否の自由は事実上なかった」ことから、附則137条の類推適用を認め、「メンバーに契約関係からの離脱を保証すべきと言える」とした。

これによって、メンバーは10年間の専属契約に署名押印しているものの、2020年の脱退表明は有効であると判断した。

つまり、労働契約はなかったものの、強固な指揮監督下にあり、事務所代表の要求を受け入れざるを得ない状況に置かれていたことを裁判所が認めたかたちだ。

●セクハラ・パワハラ行為については言及なし

日常的なビデオ通話による過度な拘束や、「テジ」「チュグレ」といった発言の不適切性から、「被告らがマネジメントの解消を求めたことも無理からぬものがあった」ことも、メンバーに責任のある債務不履行があったとは認められないという判断の根拠となった。

しかし、事務所代表が着替えの際も控室から出ていかなかったり、身体に触れて「もっとヒップをあげたほうがいい」と言ったり、すぐに大声をあげるなどのハラスメント行為については、言及されることはなかった。

メンバー側の代理人・河西邦剛弁護士は、私見として「強固な指揮監督下にあったことから、ハラスメント行為を認定するまでもなく、契約関係を離脱することができるとしたのではないか」と述べた。

Aさんは「(ハラスメントの)証拠がないので、認められなかったのは悲しい。私たちが受けてきたことは、あってはならないこと。4人で一緒にいたときは、(ハラスメントを受けても)当たり前だと思っていた。仕方ないでは片付けられないけれど、他の部分は認めてもらえた」と語った。

●ふたたび芸能活動へ、希望を取り戻す判決に

ダンスや歌の練習中に、急に怒鳴られたりすることで、楽しんで活動ができなかったというAさんは、今回の判決で「私たちが活動してきた環境は普通ではなかった」「同じような環境での活動を強いられているタレントを1人でも多く救えたらと思っている」と語った。

Aさん以外のメンバーも、代理人を通じて、次のようなコメントを書面で寄せた。

「辞めると判断した私たちは間違っていなかった。この先同じようなことは二度と起きて欲しくない」(Bさん)

「デビューのために普通だと思い取り組んでいたことや耐えてきたことが、普通ではなかったことに今更かもしれませんが気付くことができ、周りに相談できる環境がとても大切だと感じました」(Cさん)

「私たちの辛かったという気持ちを理解してもらえたような気がして、とても嬉しかったです」(Dさん)

証人尋問の際、時折涙ぐんでいたAさんは、裁判長から現在の芸能活動について質問されると、「友人のバックサポートのみを無報酬でしたことはある」と答えていた。

韓国デビューまで果たしながらも、活動中断を余儀なくされたAさん。今回の判決によって、希望を取り戻したことに触れた。

「自分のやりたいことを考える時間ができた。ステージに立つのは楽しいって思えるようになったし、恋しいって思う気持ちもある。これからはアイドルではなかったとしても、何かしら活動ができたらいいなって思います」(Aさん)

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