駅構内などの雑踏で、わざと体当たりして、ぶつかってくる男性を「ぶつかりおじさん」と呼びます。SNSでは、毎日のように「ぶつかりおじさんに遭遇した」という声が寄せられています。その被害の多くが女性で、悪質なケースだと刑事事件に発展することもあります。
昨年12月にはタレントの加藤夏希さんがX(旧ツイッター)で、「ぶつかりおじさん」に遭遇したことを投稿して話題となりました。
弁護士ドットコムにも、「ぶつかりおじさん」に対して、慰謝料を請求したいという相談が寄せられています。
ある女性は、駅で見ず知らずの男性に後ろからタックルされたそうです。「もしも私が屈強な男性であればこのようなことはしなかったはず」といい、「悪質で許せない」と憤ります。
もし「ぶつかりおじさん」に遭遇したらどうすればよいのでしょうか。また、被害に遭ったら、慰謝料の請求はできるのでしょうか。甲本晃啓弁護士に聞きました。
●故意にタックルしてきた場合、暴行罪または傷害罪の可能性
弁護士ドットコムに寄せられた相談によると、ある女性が電車に乗り込んだときに後ろから突然、面識のない男性からタックルされたといいます。電車内で呆然として立ち尽くす女性に対して、男性はさらに威嚇し、蹴る動作を見せつけてきたそうです。
女性は駅員に助けを求め、警察に被害届を出したそうですが、女性は「これがもし妊婦さんや赤ちゃんを抱っこしている人、老人だったらと思うと怖いです」といいます。
また、女性は持病の腰痛が悪化して通院を余儀なくされたうえ、毎日の通勤で電車に乗ることに恐怖を覚えているとのことです。
このようなケースの場合、タックルしてきた男性はどのような罪に問われる可能性があるのでしょうか。甲本弁護士が解説します。
「故意に人にタックルした場合、暴行罪または傷害罪が成立します。
この違いは、人に暴力を振るうのが暴行罪(2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料)、さらにケガをさせてしまった場合に傷害罪(15年以下の懲役または50万円以下の罰金)というより重い罪となります。
今回のケースでは、『持病の腰痛が悪化』とあるので、傷害罪にあたります。『ケガ』については暴力を受けたことによるPTSDなどの心因性のものも含まれます」
●我慢せずに警察に被害の届け出を
女性はぶつかりおじさんに慰謝料を請求することは可能でしょうか。
「可能です。先ほど述べたように、刑事事件で暴行罪や傷害罪に問うだけでなく、民事事件として治療費や慰謝料を請求することができます。
人に暴力をふるうことは、民事上の不法行為(民法709条・710条)にあたるので、治療費や慰謝料の請求ができます。
不法行為は、原因が故意(わざと)か過失(うっかり)かは特に区別しないので、ざっくり言えば、過失による交通事故の損害賠償と同じように考えることができます」
女性は警察に被害届を出したそうですが、実際にはどのように対応することが望ましいでしょうか。
「今回のケースのように駅構内で暴力をふるわれた場合、駅員や周囲の人の協力を得て警察に犯人を突き出せればよいですが、多くの場合、突然のことにびっくりするのが先で、その後からできることは限られると思います。
とはいえ、必ずやっておきたいのは、我慢せず、駅員に申し出て、警察に届け出をすることです。少しでもケガがあれば、医療機関で受診してください。
駅構内には、たくさんの防犯カメラがありますし、ICカードと個人情報が結びついていることもあります。今回のようなケースであれば、捜査されて、そういった足跡から犯人が特定されると思います」
●トラブル回避のためには…
しばしばSNSで、「金髪にしたらぶつかりおじさんの被害に遭わなくなった」などの投稿を見かけます。自衛のためにできることはありますか。
「身をまもるためには、まず、基本的には『歩きスマホ』をしないこと、そして、周囲をよく見ておく必要があると思います。『ぶつかりおじさん』に関するSNSの投稿をみると、周囲に注意を向けていない人もターゲットとなりやすいからです。
もちろん、今回のケースのように故意に背後からタックルされたという事例は異常ですから、もう防ぎようがありません。
このように被害者にまったく落ち度がないという事例も少なくないと思いますが、一方でご自身の不注意から他人にぶつかってしまうケースもあり、結果的に『ぶつかりおじさん』としてSNSで語られているケースもあるのではないかと思います。
先日、『歩きスマホ』をしていた人が、待ちきれずに乗った人とぶつかってトラブルになっている様子を目の当たりにしました。やはりご自身のためにも、ルールやマナーを守ると、トラブルを回避できるのではないかと思います」