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子ども性被害の背景に「グルーミング」 オンラインで知り合い、妊娠した中学生も
画像はイメージです(YsPhoto / PIXTA)

子ども性被害の背景に「グルーミング」 オンラインで知り合い、妊娠した中学生も

刑法の性犯罪規定の見直しについて議論する法制審議会(法相の諮問機関)で、「グルーミング」についても取り上げられることになった。

「グルーミング」とは、性交やわいせつな行為などをする目的で、親切を装って子どもを手なづけることで、「チャイルド・グルーミング(child grooming)」と呼ばれることもある。

あまり聞いたことのない言葉だが、性犯罪被害に詳しい弁護士は「若い世代への性暴力は、だいたいグルーミングからはじまることの方が多い」と語る。いったいどのような被害が起きているのだろうか。

●オンラインで仲良くなってから被害に

性暴力被害者支援にたずさわる川本瑞紀弁護士の元には、夏休み明けになると「グルーミング」から始まる性被害の相談が増える。多くは夏休みの間にオンラインで知り合った人からの被害だ。

「SNSで知り合い悩み相談や趣味の話で盛り上がった後に、直接会う約束をして、『外じゃ話しにくいから家においで』『家で有料コンテンツを見ようよ』と相手の自宅に誘われ、不意打ちで性的行為をされる。これが典型的なパターンです。中高生はまさか自分の体に興味を持たれているなんて思いもしていません」(川本弁護士)

大阪大学大学院の野坂祐子准教授も「子供をねらう加害者は、そうした(編注:暴行や脅迫を伴う)あからさまな身体的暴力よりも、グルーミングを用いるのが典型である」と述べる(月刊誌『児童心理』2018年7月号)。

「一晩中、メールやラインを送り、子どものつぶやきや愚痴に共感や同意を示しながら、数百通ものやりとりを交わす。たとえ、それが『相槌』程度の内容であったとしても、寂しさを感じている子どもにとって、自分に関心を向けてくれる『画面の向こう』の相手は、何者にも代えがたい存在となる」(同誌)

(ヤシの木 / PIXTA) (ヤシの木 / PIXTA)

●グルーミング、3つのケース

法務省の「性犯罪に関する刑事法検討会」取りまとめ報告書では、グルーミングは3つのケースに分類されると整理している。

(1)オンライングルーミング:SNSなどを通じて徐々に子どもの信頼を得た上で、会う約束をするなどして性交に及ぶケース
(2)リアルで近しい関係からのグルーミング:子どもと近い関係にある者が、子どもの肩をもむといった行為から始め、断りにくくさせた上で徐々に体に触れるケース
(3)それほど近しくない人からのグルーミング:子どもと面識のない者が公園などで子どもに声を掛けて徐々に親しくなるケース

グルーミング行為を処罰する規定を設けるべきかが議論される中、性暴力被害者支援看護師の山本潤委員から(2)に当てはまる事例が報告された

被害にあったのは、当時14歳だった中学3年の女子生徒。塾で大学生の教師から「可愛いね」「特別だ」という言葉をかけられるようになり、「特別に勉強を教えてあげる」という名目で教師の自宅に呼び出されるようになった。次第に自宅に呼ばれる人数が減っていき、一人になったときに被害にあったという。

「受けていた行為を恋愛だというふうに思い込むようにした。こんなことはよくあ ることなのだ、自分が先生の家に来てしまったから自己責任なのだ、先生が言うように、 既に大人の恋愛らしき行為ができるのだと14歳の子どもなりに必死に頭を働かせて、自分 を納得させて、わい小化しようとあがいていたと伝えていただきました」(山本委員の報告より)

●「罪が軽すぎる。なんとかならないか」

川本弁護士の元には、被害にあった中高生の親から相談が寄せられる。多くは警察への相談後で、13歳以上の場合はレイプとして扱われず「罪が軽すぎる。なんとかならないか」と駆け込んでくるという。

レイプとして扱われないというのは、一体どういうことか。

わいせつな行為や性交等をした場合、被害者が13歳未満であれば、加害者は強制わいせつ罪(176条)や強制性交等罪(177条)に問われる。ただ、13歳以上であれば、暴行や脅迫がなく抗拒不能でもない場合、各都道府県の青少年保護育成条例違反に当たることが多い。罰則は2年以下の懲役又は100万円以下の罰金だ。

川本弁護士は現在の規定について「あまりに軽すぎる」と問題視する。

「グルーミングから始める性被害の場合は、初犯で罰金30万円、悪質な場合は50万円くらいですが、これはあまりに軽すぎると思います。中学生が性交されて妊娠することもありますが、中絶費用のために弁護士が示談交渉すると、罰金さえ取られないこともあります」

学校や塾の先生など被害者との間に地位・関係性がある場合は、被害者が13歳以上でも「児童に淫行させる行為」を禁止する児童福祉法違反(34条1項6号)に当たる可能性がある。その場合の罰則は10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金となる。

しかし、オンラインで知り合った相手や友人の父親、親戚、図書館で知り合った大人などの場合、多くは青少年条例違反の罰金相当となり、裁判をせずに略式手続きで終わる。

●イギリスやドイツで規定あり

海外の規定はどうなっているのだろうか。

前述の検討会での北海道大学の佐藤陽子教授による報告や書籍『性犯罪規定の比較法研究』(成文堂)によると、イギリスはグルーミングの後に性的な行為をする目的で子どもと実際に会う行為、会う準備をする行為などが処罰の対象になっている(2003年性犯罪法15条)。

また、ドイツでは児童に性的行為をおこなう目的でネットなどで取り入るグルーミングそのものが禁止されている(刑法176条4項3号)。2020年の改正で、おとり捜査など相手が大人だった場合にも処罰が可能となり、犯罪抑止効果が上がることが期待されている。

グルーミングについて日本でも新たに罰則を創設するか、検討会では結論が出なかったため、今後、法制審議会でさらに議論される。

川本弁護士は「今は13歳以上の被害者が法律からこぼれ落ちている状態だ。まずはグルーミングという言葉が広まって欲しい。そして、これが犯罪になるということを国の法律で示し、若年者に与える悪影響にふさわしい処罰規定にしてほしい」と話した。

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