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「逃げ恥」を考察、専業主婦は「月給19.4万円」の労働者? 「好き」を搾取されないための結婚経済学
ミクロエコノミスト・是枝俊悟氏

「逃げ恥」を考察、専業主婦は「月給19.4万円」の労働者? 「好き」を搾取されないための結婚経済学

年収600万円未満の夫を持つ専業主婦は「好きの搾取」をされている――。10月30日に刊行された『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(白河桃子、是枝俊悟著)は、2016年放送の大ヒットドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』を素材に、「年収600万円以下の夫は専業主婦に正当な対価を支払えていない」と主張する書籍だ。

なぜ専業主婦に対する「搾取」が起こってしまうのか。同書の共著者であるミクロエコノミスト・是枝俊悟氏に聞いた。(ライター・亀田早希)

●専業主婦が月給19.4万円をもらえるのは夫の年収600万円から

『逃げるは恥だが役に立つ』が放送されると、「主婦の月給19.4万円」という額面が話題になった。是枝氏は本書の中で、この金額は「主婦がもらうべき金額」として妥当だと評価している。その根拠となる時給は、日本人女性の平均的な賃金から1383円と算出(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」2011年より)。ドラマのように1日7時間勤務で週休2日制と仮定すると、1383円(時給)×7(時間)=9681円(1日あたりの賃金)。1月あたり20日間働くとすると、総労働時間は140時間となり、月給は19万4000円となるのだ。

ちなみに、「1日7時間勤務で週休2日制」という労働時間は、子なし専業主婦世帯の週平均の家事時間とほぼ合致するという。

一方で、専業主婦が実際に夫から受け取っている対価は、家族共通の生活費の半分と妻が自由に使えるお金などからなるが、これはおおよそ夫の手取り収入の半分だと仮定する。すると、妻が家事労働の対価として手取り月給19.4万円を得るためには、夫の年収は手取りで月38.4万円が必要となり、これを税込み年収に直すと年収600万円程度必要となる計算だ。

ちなみに、子どもが生まれた場合は、未就学児の間は子育てのため妻の労働時間が飛躍的に増えてしまい、夫に必要な年収は税引き前で約1250万円にまで増加する。こうなると、とても一般的なサラリーマンが稼げる年収ではない。

●正当な対価を支払うために、夫は家事を分担せよ

実際には、夫に年収1250万円を稼いで来いなどと主張する専業主婦はほとんどいないだろう。そうではなく、子どもを育てる専業主婦は家事育児が大変な長時間労働になっている割に「見返り」が少ないことを「割に合わない」と思っている。その「割に合わなさ」を端的に表すのが年収1250万円という数字なのだ。

それでは、妻の働きが「割に合う」ようにするにはどうすればよいのか。是枝氏は、夫が家事育児を分担して妻の「労働時間」を減らしたり、共働きすることにより政府からの「育児補助金」を受け取ったりすることが必要だと説明する。

「夫婦共働きを続けるなら、産休・育休中は出産手当金や育児休業給付金が支給され、子どもを認可保育園に入れれば運営費の一部が国や自治体から補助される。これは事実上の育児補助金だが、専業主婦世帯では一切もらえません」

とはいえ、共働きをして夫と妻が同等に家事・育児を担うべしと主張する内容には、一部の男性読者から反論があったそうだ。

「男性から『分担しようとしても18時に会社を出られない』『周囲の理解がない』『出世に響く』という意見が寄せられました。しかし、法律上は申請すれば男性でも残業の免除を受けられる。残業代がなくなったり昇給が止まったりしたとしても、家計のデメリットは大したことはない。試算をすれば、これらのデメリットより妻が働き続けるメリットははるかに大きいのです」

●夫の出世よりも妻の仕事継続を優先したほうがお得

書籍内では「妻が子育てのために途中退職」「定年まで夫婦で正社員共働き」「夫が仕事を中断し大学院に2年在籍+妻が定年まで正社員」という3パターンの家計収支が試算されている。

第2子ができた時点で妻が一度退職し専業主婦になった場合、夫のみの給与で教育費をねん出するのは容易ではない。子どもが小学校に上がってから妻がパートで収入を補っても、子の大学進学のタイミングで支出が収入を上回り、老後の貯金を切り崩さなくてはならなくなる試算だ。

それに比べ、定年まで夫婦共働きを続ければ、夫が残業を拒否して収入が2割減ったとしても家計と貯蓄に余裕が発生する。さらには、夫が仕事を一度退職し大学院に在籍した後に再就職するとしても、家計には充分ゆとりができるのだ。

「仕事をセーブする必要があるのは、あくまで子どもが幼く手がかかる時期だけ。小中学生にまで成長すれば、その後のキャリアがある程度自由になります。夫婦それぞれに収入があると、チャンスを活かして転職したり、起業の準備をしたりすることも容易なはずです」

逆に、共働きの妻に家事育児を押し付けて「ワンオペ」状態にしてしまうと、家計のリスクは高まってしまう。

「女性が頑張れば乗り切れる場合もありますが、妻だけ業務量を抑えて、周囲に気を遣いながら仕事をすることはかなり精神的に苦しいでしょう。実際に、子どもを2人産んで仕事を続ける女性は4割程度しかいないという調査結果もあります。ワンオペ共働きは一時的に世帯収入が多くなるものの、持続性が乏しく、いつか無理がくるものだと考えるべきです」

是枝氏も現在共働きで子育て中であり、実際に家事・育児を折半して担う生活を実践している。

「仕事の時間が制限されるのは正直つらいときもあります。しかし、仕事の密度は上がったと感じますし、子どもの世話がひと通りできるようになり、妻に出張が入っても対応できるようになりました」

●夫婦の働き方を見直すきっかけに『逃げ恥』を活用しよう

本書の執筆のきっかけになったドラマ『逃げ恥』は世間にどのようなインパクトを与えたのだろうか。

「家事労働の対価については1960年代から何度か学者の間で話題になったことはありましたが、一般にはほとんど知られていませんでした。

一方、『逃げ恥』は契約結婚の枠組みを使って実際に対価を払ってみせた。さらに、本当に結婚すると対価が消えてしまうことに主人公のみくりが反論するシーンは、多くの人の腑に落ちるものだったのではないでしょうか」

是枝氏はそう評価したうえで、『逃げ恥』を題材にした本書を「家計に対して仕事で得る収入と家事・育児労働がどう貢献しているか評価し、働き方や暮らし方について夫婦で話し合うきっかけにしてほしい」と話す。

「今後、家計をとりまく税制も高所得者に対する負担増となることが予測されます。ただし、課税対象はあくまで個人であり世帯ではない。抜本的に見直されでもしない限り、片働きの専業主婦家庭に不利な税制が続くでしょう。この点からも、夫婦が協力して共働きを続けることはよい選択肢だといえるのではないでしょうか」

【書籍情報】

書名:「逃げ恥」にみる結婚の経済学

著者:白河桃子、是枝俊悟

出版社:毎日新聞出版

書籍情報:http://mainichibooks.com/books/social/post-480.html

【是枝俊悟氏プロフィール】

是枝俊悟(これえだ・しゅんご)

ミクロエコノミスト。民間シンクタンクで税・社会保障制度の改正による経済や家計への影響などの調査・分析を行う(本書は個人として執筆)。社会保険労務士、ファイナンシャルプランナーなどの資格も持つ。著書に『徹底シミュレーション あなたの家計はこう変わる!』(日本法令、2013)、共著に『大増税時代を生き抜く共働きラクラク家計術』(朝日新書、2012)など。

(弁護士ドットコムニュース)

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