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切迫流産で突然の出勤禁止、2か月休職…働く妊婦がもらえる「傷病手当金」
画像はイメージです(プラナ / PIXTA)

切迫流産で突然の出勤禁止、2か月休職…働く妊婦がもらえる「傷病手当金」

「今すぐ、しばらく入院してください」。妊娠10週で大量出血してしまい、産婦人科を受診した私に告げられたのは、切迫流産による緊急入院の指示だった。

担当医師の見立てでは「最低半月の入院、その後も自宅安静」「仕事復帰は未定」。仕事は長期間の休職になりそうだった。急な入院による仕事の引継ぎにも骨が折れたが、それ以上に不安が募ったのが休職中の収入の工面をどうするか――。

ライターと会社員(ベンチャー系・正社員)の二足わらじをはく私が、働く妊婦が切迫流産や切迫早産などで長期休職したら、収入保障や医療費負担の助成はどうなるのか。実体験を元に紹介していく。(亀田早希)

●「有給休暇にする? 休職にする?」人事部からの確認電話

切迫流産というのは、流産したのではなく、流産の恐れがある状態のこと。そう診断されたショックと、突然の引継ぎに追われていた私の頭を「お金」に引き戻したのが、人事部からの1本の電話だった。

「お休みの扱いを休職にするとお給料がでないよ。まず有給休暇を消化する?」

担当医は、少なくとも1か月は休職する必要があると言っていた。有給休暇ではとても足りない。慌てた私は、判断を保留にしてもらい、急病時の入院補償制度がないか調べ始めた。

見つけたのが健康保険組合の「傷病手当金(給付)制度」。労災ではない病気やケガによる休職ならば、その期間、給与の一部を支給してくれるという制度だった。

この制度が適用されるには「連続する3日間を含み、4日以上仕事に就けなかったこと」という要件がある。休職期間は経過によるため、想像よりも短くなる可能性もある。まとまった休職期間をできるだけ適用対象にしたいと考えた私は、人事部に入院1日目から休職扱いにするようお願いした。

●転職したばかりに傷病給付金の支給額が減った

傷病手当金の解説では「月額報酬の2/3が支給される」と書いてある。「会社員万歳!」と感動したのも束の間、再度人事部から電話があった。

「転職してまだ1年経ってないから満額もらえないよ。大丈夫?」

調べてみると、転職または入社して1年に満たない場合の支給額は、平均の月額報酬額もしくは月28万円どちらかの「低いほう」を基準にした2/3の額とある。たとえば、月額報酬額が50万円ある人でも、転職して1年以内であれば問答無用で月18万6千円しか支給されないということだ。高いローンを組んでいる人などは困るだろう。

転職から1年未満だった私も見事この基準にひっかかり、月18万円6千円しかもらえなくなってしまった。転職前も転職後も、給与相応額の高い社会保険料を払ってきたのに…。

●申請書類を揃えるのに時間がかかった理由

書類を揃えるのにも苦労した。提出書類4枚のうち1枚には医師のサインと所見の記入が必要だ。また、必要な医師の所見は「未来の休職期間」を記入できない。つまり、休職期間が終了してから書類を作成するか、月をまたいで休職する際には月ごとなど期間を区切って都度、書類を作成するかどちらかだ。

人事部は収入がないと困るだろうと、月末締めで傷病給付金の書類を作成するよう指示してきたが、現実は甘くなかった。

医師の所見は、申請した当日に発行されないことが多い。月初の診察時に前月分の依頼をしても、書類ができるのは数日後。安静指示中の身にムチを打って取りに行くか、次回の診療の際に受け取り、遅く申請するかどちらか。間違って翌月の期間も記入されてしまった場合、申請は翌々月扱いになってしまう。

私だけではない。同じく2か月の休職をした知人の場合、医師が記入してくれるまでに2か月以上かかったという。郵送してもらえたので、受け取り時の負担はなかったようだ。ただ、「月給と同じように、決まった時期に振り込まれると期待して、生活費の予算に組み込んでいたら大変なことになったと思う。貯金があったから何とかなったけど」と話していた。

●制度があっても貯蓄は必須

私の休職期間は2か月強におよんだため、およそ37万円の傷病給付金が支給される予定である。転職により減額されたとはいえ、2か月間の生活保障としては充分な額だろう。

しかし、37万円は仕事復帰をして2週間が経った現在も振り込まれていない。既に最初の申請から1か月過ぎている。申請が遅れたうえ、審査にも時間がかかるそうで、支給日は未定のままだ。一般的には数か月かかるといわれている。

加えて、私の場合、休職中に入院・治療費として約30万円を支払うはめになった。結構な出費である。

入院や手術で高額の医療費が必要になった場合には、高額療養費制度の対象になり、一定額以上の医療費が健康保険組合から還付されるはず。しかし私の場合、入院・治療費の大半は差額ベッド代だった。というのも、私の通院先の病室は、すべて個室仕様。入院中は診察がほとんどなく、毎日寝ているだけだったので治療費は少額だったが、1日1万円以上の部屋代が請求されていたのだ。差額ベッド代は保険適用外であり、制度の対象外なので自己負担となってしまう。

民間の医療保険に入っていれば、切迫流産や切迫早産の入院治療が医療保険の支払い対象になることもあるようだ。また保険の種類によっては、入院の日数によって1日あたり数千円から数万円の入院保険金も得られるはずだが、私は加入していないため費用の足しにはならなかった。

突然の長期休職を終えて感じたのは、妊娠中に切迫流産や切迫早産などにより入院、休職を余儀なくされる妊婦は珍しくないということ。また、世の中にはさまざまな保障制度があるものの、リスクが起こってすぐお金が支給されるものは稀だということ。

加えて、保障対象外の出費が思わぬところでかさんでくるということだ。万一の事故や病気に備えることを考えれば、給与の半年分の蓄えはあった方が安心だろう。勤め人の妊婦へのセーフティーネットは手厚い。しかし、頼りになるのは手元の貯蓄だと身に染みた2か月だった。

(弁護士ドットコムニュース)

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