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「炎上とプライバシー」問題に一石? SNSの記事を削除する「消しゴムボタン」法
SNSに投稿した写真がきっかけで、「炎上」する事例が多発している

「炎上とプライバシー」問題に一石? SNSの記事を削除する「消しゴムボタン」法

未成年がツイッターなどのSNSに飲酒中の写真などを投稿して「炎上」するのは、もはや日常茶飯事と言っていい。そういった事情は米国でも変わらないようで、カリフォルニア州ではこのほど、未成年が不適切な投稿をすぐに削除できるように、SNSなどに「投稿削除」ボタンの設置を義務付ける法律ができた。

AFP通信などの報道によると、この法案は「消しゴムボタン」法と名付けられ、9月下旬に州知事が署名した。フェイスブックやツイッターなどの大手SNSには、すでにユーザーが自分の投稿を削除できる機能があるが、同法では他のSNSサイトやオンラインサービスなどに対しても、18歳未満のユーザーに向けて削除ボタンを設置することを求めている。2015年から施行されるということだ。

たしかに、16歳のときの「不適切な投稿」の重荷を、一生背負い続けなくてはならないというのはあんまりだ。日本でも「削除機能がない」ことが、一部のSNS等で話題になったことがあるが、弁護士は今回の「消しゴムボタン」法をどう見るだろうか。石井邦尚弁護士に聞いた。

●「炎上事件」対策としては期待できない

「この法律の直接的な効果は、過度に期待することはできません。

そもそも、ほとんどのメジャーなSNS等には、未成年(カリフォルニア州では18歳未満)者に限らず、投稿等の削除機能があります。

この法律への対応を迫られるのは、削除機能のない、一部のサービスやモバイル・アプリケーションに限られます」

石井弁護士は続ける。

「さらに大きな限界は、今回の法律で削除が義務づけられるのは、未成年者の自分自身の投稿に限られている点です。

つまり、未成年者の投稿を、第三者がコピーして再投稿(たとえば、ツイッターのリツイート)などしたものについては、削除義務はないということです。

したがって、最近問題となっている『炎上』事件には、ほとんど効果がないと言えます」

確かに、現実に起きている「炎上」事件では「元の投稿」がさまざまな方法で拡散されるため、一度広まってしまうと「元投稿を削除しても手遅れ」という認識が一般的といえる。

「また、SNS等の運営者は、未成年者の投稿を閲覧できないようにすればよいだけで、運営者がその投稿データを保持し続けることは禁じられていません」

つまり、外部からは見えなくなるが、投稿した事実やその内容が、完全に消去されるとは限らないということだ。

●「プライバシー保護」をめぐる論争に投じられた一石

それでは、この法律の意義はどこにあるのだろうか。

「この法律が注目を集めている理由はむしろ、プライバシー保護を重視するヨーロッパ(たとえば『忘れられる権利』の議論)に比べ、言論の自由や情報の活用が重視される傾向の強いアメリカにおいて、しかもIT企業が集まるカリフォルニア州で、このような法律が成立したということ自体の持つ意義にあると思います」

つまり、プライバシー保護は、アメリカにおいてすら、大きな問題と認識されるようになっているということだ。

「プライバシー保護についてどのように考えるかは、今後のITビジネス等にとって、非常に大きな問題になります。今回の法律により投じられた一石が、今後どのような波紋を生んでいくのか……。この問題については、日本でも真剣に議論していく必要があると思います」

石井弁護士はこのように締めくくった。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

石井 邦尚
石井 邦尚(いしい くにひさ)弁護士 カクイ法律事務所
1972年生まれ。専門は企業法務。特にIT関連の法務やコンテンツビジネス関連の法務に力を入れている。著書に「ビジネスマンと法律実務家のためのIT法入門」(民事法研究会)など。東京大学法学部卒、コロンビア大学ロースクール(LL.M.)卒。ブログ「企業法務の基本形!IT法務の未来形!!」:http://www.blog.kakuilaw.jp/

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