スマートフォンの充電中に充電端子が焼け焦げてしまったり、スマホの本体が発熱したりして、最悪の場合はやけどを負う可能性がある――国民生活センターはそんなトラブルが増えていることを報告し、注意を呼びかけている。
同センターが2月20日に公表した資料によると、スマートフォンの充電端子の焼損や本体の発熱に関する相談は、2009年度はわずか2件だったのが、2012年度には523件と急増している。相談者からは「充電端子とスマートフォンが溶け、布団も焦げた」「充電端子からケーブルを抜く際に、発熱した端子に触れやけどを負った」という事例が報告されているという。
では、スマホの充電中にやけどしてしまった場合、ユーザーは治療費などの賠償を受けられるだろうか。もし裁判を起こした場合、どんな点がポイントになるだろうか。消費者問題にくわしい福村武雄弁護士に聞いた。
●メーカーには「製造物責任」がある
「充電器の端子の焼損で消費者がやけど等のケガを負った場合、製造物責任法により、充電器のメーカーに治療費等の請求をすることが考えられます」
こう福村弁護士は述べる。製造物責任法は、製品に欠陥があって損害が発生した場合に、消費者保護の観点から、製造者に「過失」がなくても損害賠償責任を認める法律だ。
ただ、福村弁護士によると、消費者には「立証の壁」があるという。
「製造物責任法を制定するとき、『推定規定』を入れるべきではないかという議論がありました。推定規定とは、製品を適正に使用していたにもかかわらず事故が起きた場合、製品に欠陥が存在したと『推定』し、被害者が欠陥の存在を証明しなくても加害者に責任を負わせる、という規定です。
しかし結局、この推定規定の採用は見送られました。そのため、製造物責任が問題となる場合も、損害賠償を請求する消費者側が、充電器の欠陥について立証する必要があります」
では、その製品に欠陥があったかどうかは、どうやって判断するのか。
「製品の欠陥の有無は、その製造物が『通常有すべき安全性』を欠いているかどうかで判断されます。本件の場合、充電器の端子部分は、充電するときに多くの消費者が素手でさわる可能性のある部位ですので、この部分が異常な高温になることを立証できれば、製品に欠陥があると認められる可能性が高いと思います」
●携帯電話の「欠陥」が認められた裁判
過去の判例で、なにか参考になるようなケースはあるだろうか。
「充電器の発熱に関する裁判例はまだないと思われますが、携帯電話の発熱により低温やけどの被害を受けた男性が、携帯電話会社を訴えたという事件があります。この裁判で、仙台高裁は、携帯電話の『製品の欠陥』を認め、治療費全額の請求を認めるとともに、慰謝料請求も認めました(平成22年4月22日判決)」
充電しているときにスマートフォン本体が発熱して、やけどした場合はどうなるのだろうか。
「そのような場合、スマートフォン本体のメーカーに対して、製造物責任に基づく損害賠償を請求できる可能性があります。しかし、メーカー純正品以外の充電器を使用していた場合や、ふとんの中など高温化しやすい場所で充電していた場合などは、製品の欠陥と損害との間の因果関係が否定されたり、過失相殺される可能性があると思います」
さきほど紹介した携帯電話の裁判も、第一審の判決では、製造物責任が否定されている。
福村弁護士は「製造物責任の分野は、法的見解が固まっていない分野だといえるでしょう」と話していた。