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野外コンサートに訪れた女性が「落雷死」 遺族が運営会社を訴えた裁判のポイントは?
落雷という自然現象について、野外ライブの主催者にはどのような責任があるのだろうか?

野外コンサートに訪れた女性が「落雷死」 遺族が運営会社を訴えた裁判のポイントは?

人気アーティストの野外コンサートに訪れた女性が落雷で死亡した事故で、女性の遺族がコンサートを主催したイベント運営会社など2社に対して、約8100万円の損害賠償を求める訴えを、今年7月、大阪地裁に起こした。

訴状などについての報道によると、亡くなった女性は昨年8月18日午後、大阪市の長居公園内の会場付近で、コンサートに入場するために列に並んでいた。ところが2時すぎごろ天候が悪化、女性の近くの木に雷が落ち、女性は死亡した。落雷時になぜ女性が木の近くにいたのかは分からないという。遺族側は事故前日から雷注意報が出ていたなどとして、主催者側に観客の安全を確保する義務があったと主張しているという。

はたして、落雷という自然現象について、主催者にはどのような責任があるのだろうか。また、事故が起きたのは会場の外だったというが、責任の範囲はどこまで及ぶのだろうか。訴訟のポイントを望月浩一郎弁護士に聞いた。

●落雷は防げないが『落雷事故』は防げる

「落雷事故は正しい対処で防げます。サッカー大会での落雷事故をめぐる判決でも、『危険が迫っていることを具体的に予見できた』として、被害者に対する損害賠償を運営側に命じた例があります(高松高裁判決・2008年9月17日)」

――どうやったら防げる?

「日本大気電気学会編の『雷から身を守るには-安全対策Q&A-改訂版』には、『厚い黒雲が頭上に広がったら、雷雲の接近を意識する必要がある』『雷鳴はかすかでも危険信号であり、雷鳴が聞こえるときは、落雷を受ける危険性があるため、すぐに安全な場所(鉄筋コンクリートの建物、自動車、バス、列車などの内部)に避難する必要がある』などと対処のポイントが記されています。

難しく聞こえますが、ようは『ぴかっ』と光ったら逃げる。『ごろっ』と聞こえたら逃げる。雷雲が完全に消えるまでは避難し続ける。これだけで、一般人でも落雷事故を回避できます」

――それでは、野外イベントの主催者側に責任はある?

「イベント主催者は参加者に対して、イベント参加契約に伴う信義則上の安全配慮義務を負っています。

先ほどのような落雷の前兆が認められた場合、イベント主催者は落雷事故を回避しなければならない義務があります。落雷事故が野外イベント会場内であれば、原則として主催者の責任は認められることになります。

なお、イベント参加契約にもし免責条項があっても、その効力は否定され、主催者の責任が認められるでしょう(消費者契約法第8条)」

――今回、落雷事故が発生した場所は、会場外のようだが……?

「もし、事故がイベントに参加するための移動中であれば、安全な経路を選択するのは参加者自身の責任となりますので、特別な事情がない限りイベント主催者の責任は否定されます。

ところが、今回の提訴に関する報道によれば、落雷事故にあった女性の遺族は、イベントに参加するために女性が列に並んでいたと、訴状で主張しているようです。したがって、今回の事案はこの2つの中間に位置すると言えるでしょう。

一般論としては、イベント主催者は、参加者に列を作らせ、列の管理をしていることが多いでしょうから、このような事情があれば、イベント会場内での事故に準じて考える方向で判断するのが相当でしょう」

どうやら今回の訴訟では、裁判所がそのあたりの事実をどう認定するかが、大きなポイントになりそうだ。なお落雷事故については、望月弁護士が自身のサイトで公開している啓発資料(PDF)も参考になる。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

望月 浩一郎
望月 浩一郎(もちづき こういちろう)弁護士 虎ノ門協同法律事務所
日本体育協会:ジュニアスポーツ法律アドバイザー、高校体操部員のミニトランポリン宙返り事故損害賠償請求事件(浦和地判1991/12/13)、高校水泳部員のプールスタート事故損害賠償請求事件(浦和地判1993/4/23)等に代理人として関与

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