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イラスト:イキウサ

ドッグランの悲劇! かまれて大怪我を負った「私の愛犬」

リードなしで自由に犬が走り回れる「ドッグラン」は、ペットにとっても、飼い主にとっても、ストレスが少ない場所であるはず。ところが、悲惨な事故も起きるようです。愛犬が咬まれてしまったという飼い主の女性は「誠意のかけらもない相手に、何もせずに引き下がるのは悔しいです」といいます。しかし、ドッグランの利用規定には「当事者同士の請求はできない」とありました・・・。坂野 真一弁護士に聞きました。


Q. 治療費の請求はできますか?

先日、ドッグランで愛犬(中型犬)が大型犬に咬まれて、手術が必要なほどの大怪我を負いました。

先方から謝罪はなく、先方の保険会社は、ドッグランの利用規定に「ドッグラン内で入場者及び入場犬同士のトラブルで起きた、けが等にかかった医療費賠償金等は当事者同士の請求ができません」という一文があることを理由に、支払いはしないの一点張りです。

この一文があるだけで、いかなる手段をもっても治療費の請求はできないのでしょうか。

お金の問題ではありません。

誠意のかけらもない相手に、何もせずに引き下がるのは悔しいんです。

A.規約上、加害者の方に損害賠償請求することは困難

保険の内容や約款の規定が解らないので確たることは言えませんが、概ね一般論としては次のように言えるかと思います。

本件の場合、ドッグラン利用規約に「入場者・入場犬同士のトラブルで起きたケガ等にかかった医療費賠償金等は当事者同士の請求ができません。」との規定があるということです。

入場者同士のトラブルで損害が発生した場合、被害者は加害者に少なくとも過失があれば、不法行為に基づく損害賠償請求が可能です(民法709条・718条)。

しかし、本件規約では、特に制限もなく当事者間で「請求ができない」と規定されています。ドッグラン内において、入場者・入場犬同士のトラブルが発生してケガ等をしたとしても、お互いの落ち度に関係なく、相手方に対する損害賠償請求権を放棄して請求しないという趣旨だと考えられます。

したがって、当該ドッグランを利用する人は、トラブルが発生して犬がケガ等を負っても、その損害についての賠償請求権を放棄することを予め承諾した上で、ドッグランを利用していると考えられます

よって本件においても、被害者が加害者に対しての損害賠償請求権を放棄することを事前に了承した上で、当該ドッグランを利用していると考えられます。規約上は、残念ながら被害者の方は、加害者の方に損害賠償請求することは困難だと考えます。

では、相手方の加入している保険会社に対して請求できないかについて検討しましょう。

相手方の加入している保険は明確ではないのですが、おそらく賠償責任保険(一定の法的責任や契約責任を負担することによって保険をかけた人(本件では加害者)が被った損害を塡補する保険)だと考えられます。

そうだとすれば、そもそも、保険会社が保険金を支払うには加害者が被害者に対して法的責任・契約責任等を負っていることが前提となります。しかし、被害者が加害者に対する損害賠償請求権を放棄していると考えられる本件では、加害者は被害者の権利放棄により、もはや損害に対する法的責任を負っていません。

したがって、加害者側の保険会社に請求することも困難だと考えられます。

次に被害者自身がかけていた損害保険があった場合、被害者側の保険会社に請求ができるかという問題があります。

保険法25条1項には、保険金を支払った保険会社は、加害者に対して被害者の請求権について当然に代位すると規定されています。分かりやすくいうと、保険会社が被害者に保険金を支払った場合、保険会社は被害者に支払った保険金額を、加害者に対して、被害者が持っていた損害賠償請求権を使って請求できるのです。

ところが、被害者は保険金の支払いを受けるまでは、加害者に対する損害賠償請求権を放棄することも自由です。

仮に被害者が損害賠償請求権を放棄した場合、保険会社が被害者に保険金を支払ったあとに、保険会社が加害者に請求しようとしても、保険会社が使うべき被害者の持っていた損害賠償請求権が放棄されて失われているので、加害者に求償(請求)できないという不都合が生じます。

そのため、被害者が放棄した損害賠償請求権の金額の限度において、保険会社は保険金支払い義務を免れ、その反面、被害者は保険会社に対する保険金の請求権を失うものと解されています(運送保険に関する最高裁判例1968年7月11日参照)。

よって、約款にもよりますが一般論として、被害者自身が損害保険をかけていても、保険会社に請求することは困難である可能性が高いでしょう。

ただ、例えば、次のように考えることもできます。

1)規約に定められた規定が、犬が手術をしなければならないような重篤な事故を負った場合も、損害賠償請求権を放棄する趣旨まで含んでいるかは必ずしも明確ではない
2)規約でいうトラブルの内容が明確ではない
3)規約の文言上、「ケガ等にかかった医療費賠償金等」と治療費が念頭に置かれているようにも読め、飼主の精神的苦痛に対する慰謝料請求権まで放棄させる趣旨の規定なのかは、必ずしも明確ではない

さらに、本問から少し離れますが、本件規約はトラブルによる人のケガさえも損害賠償請求権を放棄させるようにも読めます。そこで、

4)人身に被害が及んだ場合は、人間の生命・身体という極めて重要な法益に関する一切の請求権の予めの放棄に合理性がないことは明らかだ

と主張して、その限度において公序良俗に反して無効であるとの主張も不可能ではないでしょう。

どうしても、不誠実な相手方に請求したいのであれば、厳しい戦いにはなりますが、規約の解釈を巡って争う必要がでてくるのではないでしょうか。例えば、次のような主張が考えられます。

1)規約には「請求ができない」と書いてあるが、その規約は手術に至るような重篤な事故まで想定したものではなく、重篤な事故に関する損害賠償請求権までは放棄していない

2)加害者が故意に大型犬をけしかけてきたような場合は、これは明白な権利侵害行為であってもはや当事者間のトラブルの域を超えており、本規約が適用される場面ではない

3)規約には「医療費賠償金等」と書いてあるが、その規約は治療費を念頭に置いたものであって、飼主の慰謝料請求権を含む趣旨のものではないから、飼主の慰謝料は請求できるはずである

さらに本問からは離れますが、仮に人身に被害が出た場合は、4)の公序良俗違反の主張も可能な場合もあると思われます。

なお、多くのドッグランでは、当事者間のトラブルは当事者で解決するように規定されていることがほとんどで、「請求できない」とまで規定されているドッグランは少ないようです。利用規約を良く確認してから、ご利用されることをお勧め致します。

取材協力弁護士 坂野 真一 (さかの しんいち)弁護士
ウィン綜合法律事務所 代表弁護士。関西学院大学、同大学院法学研究科非常勤講師。著書(共著)「判例法理・経営判断原則(中央経済社)」。近時は火災保険金未払事件にも注力。
ウィン綜合法律事務所

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