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「変形労働時間制」で働く幼稚園教諭ーー「残業代」は請求できるのか?
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「変形労働時間制」で働く幼稚園教諭ーー「残業代」は請求できるのか?

労働者の労働時間は1日8時間が原則とされ、それを超える場合は残業代が払われるのが原則だ。しかし、日によって労働時間が大きく変動する仕事のために「変形労働時間制」という制度が用意されている。弁護士ドットコムの法律相談に、この「変形労働時間制」を導入した幼稚園に勤める教諭から相談が寄せられた。

相談者は状況を次のように書いている。「年間単位の変形労働時間制が採用されています。これにより1日の労働時間が10時間になり、さらに休憩時間が全くない状態にあります。そのため実質の勤務時間は1日11時間になります」。

勤務時間が短い時もあるそうだが、土日に行われるイベント、園児が登園しない夏休み、冬休みなどだという。

「変形労働時間制が採用されたと同時にタイムカードが廃止され、出勤簿にハンコを押す制度に変わりました。これにより残業時間の把握ができなくなり、勤務時間が長いときは1日15時間にも及ぶ日も珍しくありません。もちろんサービス残業です」

そこで、タイムカードの復活や休憩時間の確保、サービス残業の廃止を職場に求めたいと考えている。「変形労働時間制」とはどのような制度なのだろうか? また変形労働時間制が導入されていても、休憩時間や残業代を会社に求めることができるのだろうか? 野澤裕昭弁護士に聞いた。

●「変形労働時間制」とは?

「労働基準法は労働時間を原則として1日8時間、1週40時間以内と規制しています。変形労働時間制はこの原則を緩和し、一定期間(変形期間)を平均して1週40時間以内であれば1日8時間、1週40時間以上働かせても良いとするものです(変形期間には1か月単位、1年単位、1週間単位の3つがあります)。

たとえば、1日の労働時間の定め(これを所定労働時間と言います)を9時間、あるいは週42時間とすれば、法定労働時間の8時間を超えた1時間、40時間を超えた2時間について、残業代を支払わなくてもよいことになります。

この制度により、業務の繁閑がある場合に、所定労働時間を増やしたり減らしたりして経費を削減し、残業代を少なくできるので、使用者にとってメリットが大きくなります。

しかし、あくまで変形制は、労働時間規制の例外です。また、制度の目的は使用者の利益のためではなく、労働時間を業務の繁閑に合わせて変形することで、全体の労働時間を短縮することにあります」

●残業代の支払いや休憩時間も当然要求できる

投稿者が勤務する幼稚園の運用に問題はないのだろうか?

「残業が恒常化することは、制度の趣旨に反することになります。変形制は労働時間規制の例外なので、導入するための要件は本来、非常にきびしくなっています。

投稿者のような1年単位の変形制の場合、まず労働者の代表と労使協定を結ぶことが必須とされます。労使協定では、導入の可否だけでなく、原則として変形期間の全日について、労働日、所定労働時間、休日を具体的に特定しなければなりません。使用者が勝手に決めることはできません」

また、野澤弁護士は「変形労働時間制は、平均して週40時間以内におさまれば済むという単純なものではありません」とも指摘する。

「変形制であっても、際限なく働かせることはできません。1年単位の変形制の所定労働時間には上限規制があり(1日10時間、週52時間まで)、連続労働日数も6日までが原則とされます。残業代についても変形制で定めた所定労働時間を超え、さらにそれが法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えれば支払い義務が発生します。

たとえば、1日の所定労働時間が9時間の場合、10時間働けば1時間が残業代支払いの対象となります。1週の所定労働時間が42時間の場合に44時間働けば2時間が残業代支払いの対象となります。ただし、その中に1日の残業となる時間が1時間含まれていれば、その分は除外されます。

これに加えて投稿者のケースでいえば、1年間の全期間について、40時間(1週間)に1年間の週数を乗じて得られる時間の総枠(法定の総労働時間)を超えて労働した時間についても、残業代を支払わなければなりません。

なお休憩時間も当然、労使協定で設定しなければなりません」

野澤弁護士は、最後に次のように指摘した。

「変形労働時間制は、労働者の意見を十分聴取して内容を決めなければなりませんし、残業代の支払いや休憩時間の付与も当然要求できます。ましてサービス残業を恒常化させることは制度趣旨に反するものと言わざるを得ません。

ご質問に対してですが、職場に改善を求める前に、労使協定の有無・内容、労働者代表の選出が適正にされているかなどを調査することが必要だと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

野澤 裕昭
野澤 裕昭(のざわ ひろあき)弁護士 旬報法律事務所
1954年、北海道生まれ。1987年に弁護士登録。東京を拠点に活動。取扱い案件は、民事事件一般、労働事件、相続・離婚等家事事件、刑事事件など。迅速かつ正確、ていねいをモットーとしている。趣味は映画、美術鑑賞、ゴルフなど。

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