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生活費を家に1円も入れない父に、家族は呆れ顔…どうやったら追い出せるのか
画像はイメージです(aijiro / PIXTA)

生活費を家に1円も入れない父に、家族は呆れ顔…どうやったら追い出せるのか

お金を1円も入れずに家で暮らしている父親を訴えたいーー。娘だという女性からこんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

相談者によると、父は10年ほど前に仕事を辞め独立したものの、次第に家にお金を入れなくなりました。数万円は家に入れられるほどの稼ぎはあるはずなのに、1円も入れないといいます。そのため、女性と姉が働いて母に生活費を渡して住宅ローンの返済などを行ってきました。

お金を入れてもらうように言うと、モノに当たるなど感情的になる父。女性は「お金を入れない人とはもちろん一緒に住みたくありませんし、本当に出て行って欲しい」と話しますが、家の名義は父だと言います。

母は離婚することも考えているそうですが、生活費を渡さない父をどうにかして追い出すことは可能なのでしょうか。久保田仁弁護士に聞きました。

●DVによる退去命令は「相応の事情」が必要

「相談者の母親と父親との夫婦の間の問題に絞って、また相談者とお姉さんは成人しているものとして回答します。夫が妻に対して暴力をふるうような場合は、DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)に基づいて、裁判所から退去命令(同法10条1項2号)を出してもらうこともできます」

では、今回のケースでいうと、母は父を追い出せるのでしょうか。

「退去命令は、今住んでいる自宅から出ていくことを命じる極めて強力なものなのです。裁判所が退去命令を出すに場合は、退去命令を出されてもやむを得ないと言える相応の事情が必要です。

具体的には、暴行・脅迫を受けて、それによって生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きいことが必要ですし、証拠を提出してそのおそれが大きいことを裁判官に分かってもらわなければなりません。

今回のケースのように、暴力の内容が『モノに当たる』程度のレベルにとどまり、妻への直接の暴力が無い場合は、生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きいとまでは言えず、裁判所から退去命令を出してもらうことは難しいかもしれません。

もちろん、直接の暴行が無い場合であっても退去命令が出る場合もありますが、この段階ですぐに父親に家から出て行ってもらう事は難しいと思われます」

●追い出せるのは離婚が成立してから

では、他に考えられる選択肢はありますか。

「離婚を請求して認められ、財産分与の際に自宅が妻名義になった場合、家から出て行くように請求することができます。順に説明していきます。

まず、婚姻関係にある夫婦には、互いに助け合う義務『相互扶助義務(民法752条)』がありますので、夫は妻に対して生活費を渡さなければならないことになります。

今回のケースの父親(夫)も生活費を一切渡していないというのであれば、離婚原因があると認められ、母親(妻)から裁判を起こせば離婚請求は認められる可能性が高いのではないかと思います」

生活費を一切渡していない場合は、離婚が認められる可能性が高いということですね。

「はい。そして、離婚する際には財産分与(民法768条)が問題になります。財産分与とは『夫婦が婚姻中に協力して取得した財産を、離婚する際にまたは離婚後に分けること』を言います。

離婚の際に夫婦の財産をどのように分けるのかを決めるにあたっては、夫婦のいずれがその財産の形成に貢献したのかが考慮されることになります」

今回のケースでは、家の名義は夫側にあるものの、住宅ローンを支払ったのはほぼすべて妻側のようです。

「そうした事情があれば、自宅という財産(夫名義ではあるが夫婦の財産)は、妻側の貢献によって形成されたと言えます。このような場合には、財産分与の際に自宅を妻名義にすることを請求できると思います。

離婚が成立して、財産分与の結果、自宅が妻名義になった後であれば、妻は自宅の所有権に基づいて(元)夫に対して家から出ていくように請求できることになります」

離婚が成立する前だと、追い出すことは難しいのでしょうか。

「はい。仮に自宅の名義が最初から妻だったとしても、離婚が成立する前の段階では、夫は配偶者の家に一緒に住んでいるだけなので、妻が所有権に基づいて夫に出て行くことを請求するのは難しいと考えられます。

逆に夫から自分名義の家から出ていくように請求されたとしても出ていく必要はありません」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

久保田 仁
久保田 仁(くぼた じん)弁護士 丸亀みらい法律事務所
香川県弁護士会所属。平成20年弁護士登録。香川県出身。平成25年丸亀市において丸亀みらい法律事務所開設。香川県弁護士会副会長(平成29年度)、日弁連子どもの権利委員会委員(幹事)、日弁連家事法制委員会委員,香川県弁護士会刑事弁護センター運営委員会委員長(平成26年~平成28年)、高松家庭裁判所家事調停官(非常勤裁判官)など。

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