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法科大学院の改革案、弁護士から賛否の声 「法科大学院から発想離すべき」「学者の教育に疑問」の指摘も
いらすとや

法科大学院の改革案、弁護士から賛否の声 「法科大学院から発想離すべき」「学者の教育に疑問」の指摘も

2月5日に文部科学省で、法科大学院の改革について話し合う中央教育審議会の特別委員会が開催され、文科省が改革案を提示しました。

法科大学院における大きな問題としては、入学者数の減少があります。2006年度には5784人だった入学者が、2017年度には1704人と3分の1以下となっています。

文科省が示した改革案の大きな柱は、以下の2つです。

(1)法学部3年、法科大学院2年で卒業できる仕組みの充実・確立

(2)法科大学院の未修者コースにおける法学系過程以外の出身者・社会人経験者の割合を「3割以上」とした文科省告示の見直し

(1)については、法曹を目指す人材の時間的・経済的負担の軽減を目的としています。法科大学院への早期卒業・飛び入学制度は現在も一部あり、既習者による利用は、2004年度に3人だったのが、2017年度には47人まで増加していて、文科省はいままでより短時間で大学・大学院が卒業できる制度を確立したい考えです。

(2)については、法曹志望者が伸び悩む中で、告示によって入学者の質の担保が難しくなっているという危機感があり、制限をなくすことで法科大学院入学者の質を担保したい考えがあるようです。未修者コースにおける法学系過程以外の出身者割合は2006年度には49.1%だったのが、2017年度に29.1%となり、20ポイントも低下している状況です。

今回、弁護士ドットコムに登録されている弁護士に、文科省が示した法科大学院の改革案を評価するかを聞きました。

・肯定的評価と否定的評価割れる

以下の4つの選択肢から回答を求めたところ、26人の弁護士から回答が寄せられました。

(1)おおいに評価する→1票

(2)ある程度評価する→10票

(3)あまり評価しない→6票

(4)まったく評価しない→9票

肯定的な評価が11票、否定的な評価が15票で、意見が割れる結果となりました。「ある程度評価する」が10票で最多、次いで「まったく評価しない」が9票となりました。

肯定的な評価を示した弁護士からは、「いずれも門戸を広げ、バックボーンに関わらず人材を集める点で評価できると考えます」といった意見があった。一方で、肯定的な評価をした弁護士からは、法科大学院における教育内容について、「学者教員の中には自説を押し付けるだけで、まともな法曹養成教育をしていない方が多い」という指摘もあった。

否定的な評価をした弁護士からは、「法科大学院を法曹養成の中枢におくという発想から離れるべきである」という意見が出た。「未修者コースにおける法学系課程以外の出身者割合が低下している状況は、未修者コースに本来想定していない法学系課程の出身者が入ってきていることに起因」とし、問題解決につながらないとの見方もあった。

・おおいに評価する

【居林 次雄弁護士】

新しい制度について、速やかに改善を図ろうとする意欲に対して、高く評価する。

兎角、役所とか審議会は、改善の努力をしないものであるが、今回は何とか改善したいと、意欲を見せていることが高く評価される。

結果として、あまり改善されなかった場合には、再び、改善案を考えることとすればよいと思う。

法曹界の一元化という従来の方針を貫きながら、一歩一歩改善をするのは難しいことであり、合格者を増やすという目標が過大であった点を除けば、今回の改善案は、何とか実効性を挙げたいものである。

各方面で、改善案の足を引っ張るようなことは避けて、何とか協力して、実効性のある制度に近づけることが必要であると思われる。その意味で、早急な改善案が出たことを評価すべきであろう。

・ある程度評価する

【斎藤 浩弁護士】

(1)法曹養成課程を短くすること自体は良いことである。

そのためには、司法試験改革も必要で、各科目で基本的な知識と法的思考でパスできる試験を構築する必要がある。そうすると、課程を短くしても、創意工夫した法曹養成コースが作れ、試験に過度に目をむけなくて良く、個性的な教育ができる。

(2)未修枠を撤廃することは反対である。

他職経験持つ者、法学以外履修の多様な人材が法曹になることが、今ほど求められている時代はない。

【西口 竜司弁護士】

現行の制度が限界にきていることは受験生を指導していて感じます。現行の制度だと法学部はいらない、むしろ他学部に行って様々な経験をしながら予備校で学習をし,法科大学院に進めばいいという傾向にあります。法学部の存在意義がなくなっています。そういう意味では法学部を復権させるために法学部と法科大学院を一体化することには賛成します。問題は学者教員による講義をどう扱うかです。学者教員の中には自説を押し付けるだけで、まともな法曹養成教育をしていない方が多いので、どう実務家教員を入れ込んでいくかです。

【森長 大貴弁護士】

いずれも門戸を広げ、バックボーンに関わらず人材を集める点で評価できると考えます。社会人だったかどうかと、能力は関係がありませんし、いわゆる飛び級ができれば若くして本気の学生にはチャンスが広がるので、基本的にはよいと思います。

ただ,肝心なのはロースクールで教えている中身なで、そこにメスが入っていないのは残念です。優秀な人材でも、教える側がさほどでもなければ育つことはありません。他の方のコメントにもありますが、実務法学ではなく理論法学に傾きすぎたり、法律論文の基本的な思考方法すら教えないところもあるので、これでは形骸的といわれても仕方ないと思います。まずはロースクールの萎縮の原因になっている「受験指導はしない」との方針を見直してはどうかと思います。

・あまり評価しない

【大和 幸四郎弁護士】

 私見としては、法科大学院は廃止し、旧司法試験に戻し、合格者を500人にすることが司法の形骸化防止のために必要と考えています。

 法科大学院が不人気なのは、入学者数の減少にあらわれています。すなわち、2006年度には5784人だった入学者が、2017年度には1704人と3分の1以下となっているからです。

これを前提に意見を述べます。

 まず、文科省が示した改革案の大きな柱のうち、(1)法学部3年、法科大学院2年で卒業できる仕組みの充実・確立は、多少評価できると思います。法曹を目指す人材の時間的・経済的負担の軽減に資するでしょうし、司法の人気回復に多少貢献すると思います。

(2)の法科大学院の未修者コースにおける法学系過程以外の出身者・社会人経験者の割合を「3割以上」とした文科省告示の見直しについては、評価できません。入学者の質は、旧司法試験のように超難関にすることによって、はじめて担保することが可能と思います。他学部出身であっても、超難関を突破しようという意気込みのある人を入学させることが司法の形骸化防止に資すると思います。

【佐久間 玄任弁護士】

(1)については、ある程度評価できますが、もっと早く制度化できなかったのかと思います。法科大学院制度導入当初(2004年頃)時点ですでに、法学部で単位取得のペースが早い人は、3年次までにほぼ単位をとり終えて、4年次はほぼ何も履修せず、法科大学院入試の対策に当てていたので、学部を1年短縮することは当時から可能だったはずです。

 その一方で、法科大学院では、さまざまな経験(企業や法律事務所への短期派遣など)、合格後に役立つ授業など、有意義なこともやっているので、2年間という期間は、これ以上短縮する必要は無いと思います。

(2)については、問題の解決と関係なく、何をしたいのかよくわからないので、まったく評価できません。未修者コースにおける法学系過程以外の出身者割合が2006年度には49.1%だったのが、2017年度に29.1%となり、20ポイントも低下している状況は、単に法学系過程以外の出身者が、未修者コースで3年(もしくはそれ以上)の時間と多額の費用をかける価値が無いと判断したからに過ぎません。社会人経験者が大きく減少していることについても、長い時間と多額の費用をかけるのに見合わないからです。ほかに、未修からの合格率が非常に低く、長い時間と多額の費用に見合った効果が得られないどころか、社会人としてのブランクが非常に長くなると、失敗した場合の再就職や職場復帰が非常に難しくなるという問題もあります。

 告示を見直すかどうかは、これらの問題の解決とはまったく関係ありません。

 法科大学院入学者の質を担保したいのであれば、既修に一本化すればいいだけのことですが、制度化されないとしても、受験者がさらに減少すれば、実質的に既修一本化と同じ状態になると思います。

【小堀 信賢弁護士】

改革案(1)(2)とも、どちらかと言えば実行した方が良いけれども、法曹志願者の減少の抑制にはほとんど効果がないのではないかと思います。

法曹志願者減少の原因としては、法科大学院進学・修了の負担がしばしば指摘されます。

この点は、既に優れた論考が多数なされていると思いますので、私は、それ以外の視点から法曹志願者減少の原因について述べたいと思います。

「それ以外の視点」というのは、「司法試験の魅力」という、特に裏付けのない私の感覚的なものです。

かつて、旧司法試験の受験者数が数万人にも上ったのは、旧司法試験そのものに「この難関試験に合格さえすれば人生一発逆転!」といったような、ドラマ性(魅力)があったからではないかと思っています(実際には旧司法試験の時代でも、法曹はそんなに楽な世界ではなかったのでしょうが)。

私は、「現行司法試験は旧司法試験より簡単だ」と言うつもりはありません。

ただ、現行司法試験は、合格率が25%前後で、今年度の合格者が1500人程度であった場合、合格率は30%近くになるものと考えられます。

このような合格率の数字が人々に与える印象と、弁護士の増員による競争激化もあり、現行の司法試験は、旧司法試験が持ち合わせていたようなドラマ性を喪失していると感じます。

合格率(≒法曹になれる人数)が低い方が法曹志願者が増えるというのが現実なのではないでしょうか。

司法試験の魅力を回復させ、法曹志願者を増加させるためには、受験資格制限を旧司法試験時代に戻したうえ、合格者数を500人~1000人程度に抑えるのが良いと考えます。

【濵門 俊也弁護士】

(1)については、法曹を目指す人材の時間的・経済的負担の軽減を目的としているとのことですから、一定の評価をすることができます。法科大学院への早期卒業・飛び入学制度は現在も一部あるとのことですが、若くて優秀な人材を確保するには、不可欠な制度でしょう。

(2)については、制限をなくすことで法科大学院入学者の質を担保したい考えがあるようですが、問題解決の方法としてはズレていると思いますので、評価できません。未修者コースにおける法学系課程以外の出身者割合が低下している状況は、未就者コースに本来想定していない法学系課程の出身者が入ってきていることに起因しています。この事態は大学における法学部教育の質と量の問題です。教育は一朝一夕には成就できない大事業ですから、しっかり腰を据えて取り組むべき課題でしょう。

【川面 武弁護士】

前提として,予備試験合格者を今の倍程度に増加させることにより、法科大学院の大半を安楽死ないし餓死させるべきである。

法科大学院の存在を前提にすれば、一定の改善と思われる。

(1)については、早大の鈴木重勝先生が大昔似たような提案をされていたものの焼き直しではないかと思う。

(2)については、さらに踏み込むべきである。わが国は米国と異なり、学部段階で法学部が存在するのだから、いわゆる未習コースというものは全廃すべきである。もともと、旧試験においても他学部の出身者が相当数存在したわけだから、あえて未修というコースを存在させる必要はない。

・まったく評価しない

【菅藤 浩三弁護士】

プラグマティックな思考ができるなら、LSとLS導入前の制度と比べ、LSを残す方がベターという発想が出てくるはずがない。むしろLSは法曹離れを引き起こした元凶に他ならないのだが、文科省はLSを潰すという思考では絶対に動こうとしない。LSにいながら予備試験を併願する者が一定数いることで、LS自体に魅力がないことを受験者も体感している。受験者にはとっくに見透かされているのだ。

【荒川 和美弁護士】

「改革」案は、受験者激減という法科大学院救済が目的であり、志願者減少の根本原因である弁護士の危機(魅力の低下)を放置したまま、志願者数の回復のみを図ろうとするものである。弁護士の危機を招いた原因は、需要を無視した法曹人口増員政策、その一端を担った法科大学院を前提とした司法試験制度にある。

法科大学院制度は、我が国の従来の大学制度における教育と研究及び研究者養成と、司法試験ないし司法修習制度とOJT慣行とが制度上整合しないという根本的欠陥がある。法曹養成を医師養成と同一視するような制度を構想したと思われるが、教員が医師で附属病院を備える医学部と環境がまったく異なっており、法科大学院を前提とした法曹養成の制度設計が間違っていたというべきである。法曹養成の教育産業化と法曹のビジネス化を推進しただけであり、むしろ優秀で有為な多様な人材を遠ざけてしまい、法曹の質の低下を招いた。法の支配と司法の強化という司法制度改革の理念に背いた結果をもたらしたと言ってよい。法科大学院制度は、制度に乗れない者との不平等を生み出し、受験資格を外せば存在意義がなくなる。制度維持のための過剰な合格者数を維持し、合格水準を低下させざるをえず、法曹の質の低下を招いている。百害あって一利なしというのが現状であり、延命策ではなく、廃止することが正しい選択である。

【堀 孝之弁護士】

法科大学院を法曹養成の中枢におくという発想から離れるべきである。

どうしても残したいのであれば、法科大学院を現行の「司法試験『前』の機関」から「司法試験『後』の機関」とすればよい。その上で、司法試験の受験資格要件を旧試験と同様のものに戻して広く受験を認め、一定数の上位合格者には直接司法研修所入所を認めるものとし、下位合格者には法科大学院卒業を司法研修所入所の条件とすればよい。修習生の質も、法科大学院入学者の量も質も今より飛躍的に上がることになるだろう。

そもそも、大学、少なくとも法学部には、研究能力はあっても教育能力はない。にもかかわらず、単なる予備校憎しで、できもしない教育(それも単なる受験勉強)に注力した結果、肝心の研究能力が大きく衰えてしまったことを、大学は深刻に捉えるべきである。

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