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裏の空き地の木から、自宅に大量の「落ち葉」…土地所有者に清掃代を請求できる?
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裏の空き地の木から、自宅に大量の「落ち葉」…土地所有者に清掃代を請求できる?

「自宅の裏に空き地があり、そこの草木がボーボーで迷惑しています」。そんな近隣トラブルについての相談が、弁護士ドットコムの法律相談コーナーにありました。

相談者によると、自宅の裏にあった空き地の雑草がいつのまにか木になり、フェンスに草が絡みつくだけでなく、木の枝が敷地の中にまで入ってきて大量の落ち葉が出るなど、大変困っているそうです。

市役所に相談したものの対応してもらえず、3年前からほぼ放置している土地の所有者も「あんたに言われる筋合いはない」などと聞く耳持たずだそう。近隣の雑草トラブルにはどのように対処すべきなのでしょうか。山之内桂弁護士に聞きました。

●近隣関係に関する民法は120年改定されていない

「今回の相談に対するポイントは以下の通りです。

・民法には『土地の所有権』の定めがある

・他人の土地から、植物などが伸びて自分の土地にまで侵入してきた場合、地下では「根を切り取っていい」けれども、地上の枝葉は「(相手に)切除を求めること」しかできない

・清掃費用の請求ができるかどうかは、相談者の土地に対する対象植物の所有権者による侵害が、受忍限度を超えるかどうかで決まる

・どれぐらいの具体的損害を被っているか、また、その損害に見合う費用・損失で、清掃以外に有効な対策があるかどうかなどがポイント

・裁判は最終手段と考えて、住民たちで行政を動かすのも有効な手段

です。以下で詳しく説明します」

そもそも、なぜこういった空き地が出てきてしまうのでしょうか。

「空き地問題の個別要因としては、市場価値が下がって新規利用者がない、相続により非占有者が継承して放置する、所有者の高齢化などで管理放棄が発生する等のいくつかの典型パターンがあります。まずは、それらの事情が解消されない限り、個別具体的な空き地問題の根本解決は難しいでしょう。」

近隣トラブルについては、どんな法律が定められていますか。

「民法に相隣関係規定(209条以下)がありますが、明治29年制定時から今日まで120年間近く改定されていません。社会の大幅な変化にも関わらず、基本規定が長らく変更されずにいたのは、建築・土地利用法制が整備されているのに加え、日本国民の助け合い・お互い様の美しい風習や地域の結束が近隣紛争を表面化させなかったからだろうと思います。

しかし、産業構造変化、人口移動、過疎・過密、核家族化、少子高齢化など様々な要因が重なり、道徳的な規律による良好な近隣関係の維持は、ますます難しくなっています。話し合いや調停で、お互い譲り合う解決ができない場合には、法律上の権利義務関係の存否・内容を裁判所に決めてもらうほかありません」

●どんな場合でも権利が主張できるわけではない

法律の観点から、今回のケースをどう考えていけばいいのでしょうか。

「出発点は、『所有権(民法206条)』です。所有者は、法令の制限内で、自由に使用したり、収益のために利用したり、処分したりできる権利を持ちます。そして、土地の所有権(207条)は、法令の制限内でその土地の上下にまで及びます。まず、この原則論からいえば、土地所有者は、自分の土地の上下を問わず、侵入してくるものを法令の範囲内の方法で処分できるわけです。」

では、植物などが伸びて自宅にまで侵入してきた場合、勝手に処分していいのですか。

「侵入物が隣地に生えている植物であった場合には、上記の『法令の制限』として、民法233条に従います。つまり、該当植物の地上部分の越境の場合は、その植物の所有者に対して切除を求めることができるだけです。対して、地下部分の越境では、根を切り取ることができるとされています」

地下では根を切り取っていいけれども、地上部分に関しては切除を求めることしかできないのですね。

「どんな場合でも相手に民法233条に基づく権利が主張できるわけではありません。さらに、『法令の制限』の一つとして、『信義誠実原則』(民法1条2項)や『権利濫用禁止原則』(同条3項)を考慮しなければなりません。ここまでくると、紛争当事者にとって、どちらがどれほど譲歩すべきであるのか、その判断は極めて難しくなります」

●具体的にどのくらいの損害を被っているか

裁判所はどう判断していくのでしょうか。

『近隣関係や環境問題の分野で、『受忍限度論』というものがあります。当事者双方がそれぞれの立場から証拠とともに説明した結果を、裁判所が中立の立場から判断し、どちらがどの程度まで我慢するのが『社会的に見て妥当・公平』であるのかを判断するというものです。多くの場合、裁判所が認める『受忍限度』は、受忍を強いられる側からすると、不当だと思われる結論となっているのが実情です。

例えば、国管理河川の堤防にある樹木の落葉について、国に原因除去を求めた訴訟で、落ち葉の堆積は受忍限度内として住民の敗訴が確定した事例があります。また、木の根であっても、隣地に具体的な損害を生じていない場合の無断切除は違法となり、結果的に枯死させれば賠償責任が生じる可能性があります」

今回の相談者は、フェンスに絡みつく草や、伸びてきた木の枝からの大量の落ち葉に悩まされています。

「ご自身で落ち葉を清掃した費用を相手に請求できるかどうかというのは、落葉ないし樹木の所有権者が、相談者の所有土地に対して受忍限度を超える侵害を及ぼしたかどうかという問題ですので、考え方は上記と同じです。

お互いが主張するすべての事情と証拠を基に、最終的には裁判所が判断するので、確たることは言えませんが、落葉の場合には、そのためにどれぐらいの具体的損害を被っているか、また、その損害に見合う費用・損失で清掃以外に有効な対策(伐採・移植など)があるかどうかなどが判断のポイントになろうかと思われます。」

●裁判の前に、住民みんなで行政を動かすのも手

裁判だとすぐに解決というよりも、長く時間がかかりそうです。

「法的手続は、あくまでも最終手段であり、当事者にとって結果を予測しがたく、リスクが大きいと言えます。現状では、まず行政や地域社会での対応を優先して考慮するべきだと思います。かなりの数の地方公共団体で、『空き地雑草条例』というまさにご相談の問題を解決するための条例が制定されています。まずはそれを活用するのがよいでしょう。

行政が消極的な態度をとる場合は、一人だけで訴えるよりは、該当土地を取り囲む住民全員の総意として複数で持ち込むほうがよいでしょう。空き地雑草条例がないところでも、『生活環境保全条例』などによって、類似の取り組みは可能と思われます」

今後空き地問題はどうなっていくのでしょうか。

「本件は、『空き地』ですが、『空き家とその敷地』であれば、『空家等対策の推進に関する特別措置法(空き家法)』に基づいて、より強力な行政指導が可能です。

また、『空き地』についても、本年6月に出された国の『空き地等の新たな活用に関する検討会』報告書で、解決が難しい空き地の問題に対する中長期的対策を進めることが提言されており、空き家法と同様の措置法が制定されれば、状況が改善されるかもしれません。

より根源的にいえば、空き地問題は、アンチコモンズの悲劇(共有されるべき財産が細分化されて私有され、社会にとって有害になること)の一事例であって、市街地農地に対する生産緑地指定解除問題などを控えて、当面の都市政策上、最も重要な転機となる問題といえるでしょう。

空き地問題に悩む地域・自治体では、空き地の共同管理や臨時活用など、様々な手法を試行しており、個人対個人の解決だけでなく、地域全体を巻き込む動きを考えてみるのも一つの方向性です」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

山之内 桂
山之内 桂(やまのうち かつら)弁護士 梅新東法律事務所
1969年生まれ。宮崎県出身。早稲田大学法学部卒。司法修習50期、JELF(日本環境法律家連盟)正会員。大阪医療問題研究会会員。医療事故情報センター正会員。

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