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非常時の「緊急事態条項」創設 「危機が常態化する可能性も」日弁連シンポで懸念の声
シンポジウムの登壇者たち

非常時の「緊急事態条項」創設 「危機が常態化する可能性も」日弁連シンポで懸念の声

大災害やテロが起きたり、他国から武力攻撃があったときなど、非常時に政府の権限を集中させる「緊急事態条項」を憲法に盛り込むべきかという議論が起きている。このような中、日弁連は4月30日、大規模災害と法制度について考えるシンポジウムを東京・霞が関の弁護士会館で開き、災害時の権限のあり方や緊急事態条項の懸念点などについて議論した。

東京電力・福島第1原発事故で住民の避難などの対応にあたった福島県浪江町の馬場有町長や、東京大学の石川健治教授(憲法学)、日弁連災害復興支援委員会緊急時法制PT座長の永井幸寿弁護士らが登壇した。

●「現場に近い自治体に主導権を与えるべき」

大きな災害が起きた際、国と地方自治体はどのように役割分担すべきなのかが、テーマの一つとなった。

福島第1原発がある双葉町に隣接する浪江町では、東日本大震災で180人以上、避難生活による体調悪化などによる震災関連死で380人以上が亡くなった。現在も、全町民が避難をつづけている。馬場町長は、災害時の行政の役割について「現場にいないとわからないことが多い。市町村に主導権を与えて、国が全面的にバックアップすることが必要だ」と強調した。

馬場町長は、震災時の救助活動中に国から避難指示が出た経験を踏まえながら、「とくに原子力災害は、災害を経験した市町村と未経験の市町村の住民で、温度差、感度がちがう。国が単一的に対応できないケースが発生する。市町村に寄り添った国の柔軟な対応が必要になる」と話した。

1995年の阪神淡路大震災をみずから体験しながらも、その被災者の支援活動をつづけてきた永井弁護士は「阪神大震災では8割が圧死した。東日本大震災では8割が溺死した。同じ災害は一つとない。支援のニーズも時間の経過ともにどんどん変わってくる。最も効果的な対応ができるのは国でなく、被災者に一番近い市町村だ」と、馬場町長の意見に同意した。

●「緊急事態条項には隠された動機があると考えるべき」

また、自民党の改憲案などに盛り込まれている「緊急事態条項」もテーマの一つとなった。緊急事態条項とは、大災害などが起きたときに政府に権限を集中させるというものだ。非常時に強力なリーダーシップを期待できる反面、「独裁をまねく」といった批判も根強い。

石川教授によると、緊急事態条項をもうける場合でも、その発動がみとめられるのは、例外状態に限られる。だが、戦前の日本が日中戦争から太平洋戦争に突き進んだように「危機が常態化してしまう」ことも起きりうるという。

石川教授は「コントロールのない権力が、危機の常態化を理由として、内側から立憲主義をむしばんでいったり、立憲主義的な統制がやぶれていくとうことを過去の歴史上、繰り返してきた。緊急事態はたしかにあるが、すべての手段を正当化するわけではない。いかにして確実にコントロールできるのかが問題だ」と述べ、コントロール機関としての憲法裁判所の必要性も付け加えた。

さらに石川教授は、現在検討されている緊急事態条項について「目的と手段がつじつまがあわない」と批判。「つじつまがあわないのは、結局、本当の目的ではないからだ。災害対策は必要だが、目的と手段が整合していない。そこには、隠された動機があると考えるべきだ」と警鐘を鳴らしていた。

(弁護士ドットコムニュース)

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