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訴え提起から最終判決まで「10年以上」 なぜ日本の裁判は時間がかかるのか?
日本の裁判、特に国などを相手にした行政訴訟は長期に渡ることが多い

訴え提起から最終判決まで「10年以上」 なぜ日本の裁判は時間がかかるのか?

水俣病の患者認定をめぐる問題で最高裁は4月中旬、これまで国が「患者ではない」としてきた熊本県の女性を「水俣病患者」と認めるよう命じる判決を下した。行政の水俣病患者認定を、最高裁が覆したのはこれが初めてのことだった。

しかし、患者と認められた女性、溝口チエさんはもうこの世にいない。裁判は息子の秋生さんが代わりに闘った。チエさん自身が熊本県に認定申請したのは39年前。その遺志を継いだ秋生さんが、司法による認定を求めて熊本地裁に2001年に提訴してからも、12年の月日が流れている。

この水俣病訴訟に限らず、日本の裁判は時間がかかることで知られる。特に国などを相手にした行政訴訟は長期に渡ることが多く、過去には初提訴から終結まで32年を要した家永教科書裁判の例もある。迅速になされるべき司法判断で、なぜこれほどまでに長い年月がかかってしまうのだろうか。広島大学法科大学院教授でもある中田憲悟弁護士に聞いた。

●医療や知財関係など、高度な専門性のある訴訟は時間がかかる

「裁判の長期化の解消は、深刻な課題です」。そのように指摘したうえで、中田弁護士は次のように語る。

「裁判の迅速化については、これまでにも、いくつかの改革が行われてきました。1996年の民事訴訟法改正では『争点整理手続』や『集中証拠調べ』と言われる方式が導入されました。まず争点整理手続ですが、これは民事訴訟を始めるにあたり、最初に関係者が一堂に会して、裁判の論点を明確にする手続です。さらに、集中証拠調べを行うことで、証人尋問などを一気に短期間に済ませるようになりました」

それまでの証拠調べは、五月雨式に主張を提出して証拠を調べていくという方式だったが、この「集中証拠調べ」によって相当なスピードアップが可能になったという。それにもかかわらず、今回の水俣病訴訟はなぜ、こんなに長引いているのだろうか。

中田弁護士によると、裁判になる事件にもいろいろな種類があり、医学に関する訴訟は時間がかかってしまう傾向があるのだという。

「医学的な知識・見解や知的財産権など高度の専門的知識が必要となる裁判は、どうしても証拠関係資料の収集や整理に時間がかかるうえ、関係者が理解を深めることにも時間がかかってしまいます。水俣病の患者認定に関しても、膨大な資料の精査を前提として、非常に高度の専門性に基づく判断が必要となるはずです」

このように述べたうえで、中田弁護士は次のように説明する。

「私見を交えて率直に言うと、医療関係などの裁判に多大な時間がかかってしまう背景には構造的な問題があるといえます。一つは、弁護士や裁判官が日常的に広い分野の事件を取り扱っており、特定の専門的分野に関する知識の習得に時間がかかってしまうこと。もう一つは、裁判官が3~5年で異動になり、そのたびに多くの事件を引継ぐことになるため、その理解に手間取ってしまうことがあります」

一人の裁判官があらゆる種類の事件を担当することには、そもそも無理があるといえるのかもしれない。このような現状を踏まえ、中田弁護士は次のような指摘をしている。

「高度の専門性を要する事件の迅速化をはかるためには、裁判官の異動期間を考慮しつつ、他の通常事件は担当しなくて良い『専門部」を作るといった、さらなる工夫が必要なのではないでしょうか」

確かに長い時間をかけて勉強を積み重ねても、異動によってそれが泡と消えるというのは、あまりにも切なすぎる。今は交通手段も増え、テレビ会議も一般的となっている。そういった事件については、最初に担当した裁判官が判決までずっと扱うわけにはいかないのだろうか。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

中田 憲悟
中田 憲悟(なかた けんご)弁護士 はばたき法律事務所
はばたき法律事務所所長 広島大学法科大学院教授(実務家みなし専任)

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