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福島県浪江町による東電前社長に対する告発の行方は

福島県浪江町による東電前社長に対する告発の行方は

東京電力福島第一原発事故の影響により住民全員が避難を余儀なくされている福島県浪江町が、東京電力の清水正孝前社長に対し告発手続きを行なうことを決定したと報じられている。

告発とは、東京地検などの捜査機関に対して犯罪事実を申告することで犯人の処罰を求める意思表示のことであるが、浪江町は原発事故の発生時に東京電力から連絡がなかったことで住民が不要な被ばくをしたとして、清水前社長に対し業務上過失致傷容疑での告発を行なう考えとのことだ。

また今後さらに、菅直人前首相や、経済産業省原子力安全・保安院の寺坂信昭前院長、佐藤雄平福島県知事に対しても、原発事故の直後に放射性物質の拡散状況を予測する緊急時迅速放射能影響予測システム(SPEEDI)の結果を公表しなかったことで住民の避難に混乱を招き、避難中の死亡を生じさせたとして、業務上過失致死傷容疑での告発を検討しているようだ。

それではもしこれらの告発が行なわれた場合は、どのような結果になるのだろうか。木村光伸弁護士に解説を依頼した。

●ホテルニュージャパン火災事件や薬害エイズ事件では有罪判決

まず、過去にも今回と類似した事例はあったのだろうか。

「一般市民が被害者となって、企業の代表者や行政機関の責任者が、業務上過失致死傷罪に問われた事件として、ホテルニュージャパン火災事件や、薬害エイズ事件などがあります。」

「ホテルニュージャパン火災事件は、防火設備が不十分だったため、火災により、56名が死傷した事故であり、平成5年に最高裁判所で、ホテル代表者に対し、禁固3年の実刑が確定しています。薬害エイズ事件は、厚生省の担当課長が、HIVが混入しているおそれがある非加熱血液製剤について、適切な行政措置をとらなかったため、医師を通じて、患者にHIVに感染させた事件で一部有罪となり、平成20年に禁固1年(執行猶予3年)の判決が確定しています。」

告発の対象が東京電力や国ではなく、個人なのはなぜか。

「業務上過失致死傷罪(刑法第211条第1項)の刑罰は、5年以下の懲役もしくは禁錮または金100万円以下の罰金となっています。このうち、懲役刑や禁固刑などの身体に対する刑罰は、性質上、生身の人間に対してしか、科すことができないことによります。」

●予見可能性や回避可能性が争点になるか

それでは、今回の告発の対象者について、業務上過失致傷あるいは業務上過失致死傷は成立するのだろうか。

「清水前社長、菅前首相、寺坂前院長および佐藤知事に対し、業務上過失致死傷罪で刑事告訴した場合、彼らが、住民の方々への被爆拡大や、避難中の住民の方々の死亡事故という結果について、予見することが可能だったか(予見可能性)、このような重大な結果を回避することが可能だったか(回避可能性)が、主要な争点になると考えられます。」

「もし、彼らが、住民の方々に対し、必要な連絡や情報を公開しないことで、このような住民の方々への被爆拡大や、避難中の住民の方々の死亡事故が予見でき、このような重大な結果を回避することが可能だったとすれば、業務上過失致死傷罪が成立する可能性があります。」

浪江町の馬場有町長は告発の意図について、「責任を明らかにするため」と説明している。原発事故の影響や原発再稼動の是非に揺れる国民全体にとっても、非常に重要な問題提起となりそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

木村 光伸
木村 光伸(きむら みつのぶ)弁護士 弁護士法人法律事務所オーセンス
第二東京弁護士会所属。離婚、相続や近隣紛争など、身近な法律問題について、紛争解決を中心に、日々、業務に取り組んでいる。

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