内戦が続くシリアの世界遺産「古代都市アレッポ」。その一部であるモスクの塔が4月下旬、破壊された。内戦当事者の政府側と反政府側は、ともに「相手のせいだ」と主張しているというが、シリア国内にはほかにも5つの世界遺産があり、さらなる破壊が危惧されている。
日本にも現在16カ所(文化遺産12、自然遺産4)の世界遺産があり、今年6月には「富士山」が新たに文化遺産として登録される見通しとなっている。国内では、何らかの「モノ」を壊した場合には器物損壊の罪、特に文化財が破壊対象の場合には「文化財保護法」の違反として責任を問われることになる。
では、今回のように破壊したものが世界遺産だった場合、どのような罪に問われるのだろうか。伊藤隆啓弁護士に聞いた。
●「日本では、世界遺産の保全に限定された特別法はない」
「世界遺産とは、世界遺産条約(1972年採択、1975年発効)に基づいて認められる文化や自然のことをいいます。条約の目的は、文化遺産および自然遺産を人類全体のための遺産として、損傷や破壊などの脅威から保護し、保存することです。日本は1992年に、世界遺産条約を締結しています」
伊藤弁護士はこのように「世界遺産」の目的について、説明する。では、日本国内にある世界遺産を壊したら、どのような罪に問われるのだろうか?
「世界遺産条約そのものには罰則規定はありません。世界遺産は、それを保有する国の法律や制度などで守ることとされています。そこで、各国の国内法に基づいて対処することになります。
もっとも、日本では、世界遺産の保全に限定された特別の法律はありません。したがって日本では、自然環境については『自然環境保全法』や『自然公園法』などで、文化財については『文化財保護法』や『文化財の不法輸出入等の規制法』などで対処しています」
●世界遺産「屋久島」は、自然環境保全法などによって守られている
世界遺産には、建造物や遺跡などの「文化遺産」と自然地域などの「自然遺産」、文化と自然の両方の要素を兼ね備えた「複合遺産」がある。それぞれ具体的には、どのような法制度によって対処しているのだろうか?
「たとえば、自然遺産である屋久島(1993年12月登録)の保全制度は、屋久島原生自然環境保全地域と霧島屋久国立公園、特別天然記念物屋久島スギ原始林などを対象としています。
もし、屋久島自然環境保全地域に指定された立入制限地区に立ち入った場合は、『自然環境保全法』に基づき、6月以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます(同法54条2項)。
また、天然記念物を毀損した場合は『文化財保護法』に基づき、5年以下の懲役もしくは禁錮または30万円以下の罰金に処せられます(同法195条1項)」
一方、文化遺産については、「主に『文化財保護法』に基づいて文化財指定を行い、保護措置を図っています」(伊藤弁護士)という。
「たとえば、文化遺産である平泉(2011年6月登録)には、国宝『中尊寺金色堂』や特別名勝『毛越寺庭園』のほか、特別史跡『中尊寺境内』、『無量光院跡』などがあります。
もし、金色堂を損壊した場合、5年以下の懲役もしくは禁錮または30万円以下の罰金(文化財保護法195条1項)となります。境内に立ち入って現状を変更するなどの行為をした場合も、同様の罰則が科せられます(同法196条1項)」
伊藤弁護士は「現代を生きる全ての人々が共有し、将来の世代に引き継いでいくべき人類共通の宝物、それが世界遺産です」と話している。