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<新国立競技場>安藤忠雄氏「プロセス承知していない」「説明が求められる」(全文)
安藤忠雄氏が、現在の設計案に決まった経緯を説明した文書

<新国立競技場>安藤忠雄氏「プロセス承知していない」「説明が求められる」(全文)

2020年の東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となる「新国立競技場」の総工費が2520億円という巨額に膨らんでいる問題で、建設の事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)が7月16日、東京都内で記者会見を開き、建築デザインの審査委員会の委員長をつとめた安藤忠雄氏が、現在の設計案に決まった経緯を説明した。

会見に先立って、報道陣に「新国立競技場基本構想国際デザイン競技 審査とその後の経緯について」と題した安藤氏の見解が文書で配布された。

文書では、2012年のデザイン審査の際には「1300億円」とされていた予算額が、2014年5月の基本設計完了段階で「1625億円」という概算工事費になった経緯を説明。安藤氏は「この額ならばさらに実施設計段階でコストを抑える調整を行っていくことで実現可能と認識しました」としている。

しかし、その後、工事費は縮減されるどころか、むしろ約900億円も増加して、現時点で「2520億円」と見込まれており、大きな批判を浴びている。

その点について、安藤氏は「事業者による確認がなされた後、消費税増税と物価上昇にともなう工事費の上昇分は理解できますが、それ以外の大幅なコストアップにつながった項目の詳細について、また、基本設計以降の実施設計における設計プロセスについては承知しておりません」と、自身が関与していないことを弁明。「更なる説明が求められていると思います」と、現在の建設計画をめぐる関係者の対応に批判的な見方を示した。

以下に、安藤氏の見解が記された文書の全文を掲載する。

●新国立競技場基本構想国際デザイン競技 審査とその後の経緯について

新国立競技場改築について、国際デザイン競技審査委員長として、ザハ・ハディド氏の提案を選んだ審査の経緯をここに記します。

老朽化した国立競技場の改築計画は、国家プロジェクトとしてスタートしました。「1300億円の予算」、「神宮外苑の敷地」、オリンピック開催に求められる「80,000人の収容規模」、スポーツに加えコンサートなどの文化イベントを可能とする「可動屋根」といった、これまでのオリンピックスタジアムにはない複雑な要求が前提条件としてありました。さらに2019年ラグビーワールドカップを見据えたタイトなスケジュールが求められました。

その基本デザインのアイディア選定は、2020年オリンピック・パラリンピックの招致のためのアピールになるよう、世界に開かれた日本のイメージを発信する国際デザイン競技として行うことが、2012年7月に決まりました。

2013年1月のオリンピック招致ファイル提出に間に合わせるため、短い準備期間での国際デザイン競技開催となり、参加資格は国家プロジェクトを遂行可能な実績のある建築家になりましたが、世界から46作品が集まりました。

デザイン競技の審査は、10名の審査委員による審査委員会を組織して行われ、歴史・都市計画・建築計画・設備計画・構造計画といった建築の専門分野の方々と、スポーツ利用、文化利用に係る方々、国際デザイン競技の主催者である日本スポーツ振興センターの代表者が参加し、私が審査委員長を務めました。グローバルな視点の審査委員として、世界的に著名で実績がある海外の建築家2名も参加しました。

まず始めに、審査委員会の下に設けられた10名の建築分野の専門家からなる技術調査委員会で、機能性、環境配慮、構造計画、事業費等について、実現可能性を検証しました。その後、二段階の審査で、デザイン競技の要件であった未来を示すデザイン性、技術的なチャレンジ、スポーツ・イベントの際の機能性、施設建設の実現政党の観点から詳細に渡り議論を行いました。2012年11月の二次審査では、審査員による投票を行いました。上位作品については票が分かれ、最後まで激しい議論が交わされました。その結果、委員会の総意として、ザハ・ハディド氏の案が選ばれました。

審査で選ばれたザハ・ハディド氏の提案は、スポーツの躍動感を思わせる、流線型の斬新なデザインでした。極めてインパクトのある形態ですが、背後には構造と内部の空間表現の見事な一致があり、都市空間とのつながりにおいても、シンプルで力強いアイディアが示されていました。とりわけ大胆な建築構造がそのまま表れたアリーナ空間の高揚感、臨場感、一体感は際立ったものがありました。

一方で、ザハ・ハディド氏の案にはいくつかの課題がありました。技術的な難しさについては、日本の技術力を結集することにより実現できるものと考えられました。コストについては、ザハ・ハディド氏と日本の設計チームによる次の設計段階で、調整が可能なものと考えられました。

最終的に、世界に日本の先進性を発信し、優れた日本の技術をアピールできるデザインを高く評価し、ザハ・ハディド案を最優秀賞にする結論に達しました。実際、その力強いデザインは、2020年オリンピック・パラリンピック招致において原動力の一つとなりました。

国際デザイン競技審査委員会の実質的な関わりはここで終了し、設計チームによる作業に移行しました。

発注者である日本スポーツ振興センターのもと、技術提案プロポーザルによって日建設計・日本設計・梓設計・アラップが設計チームとして選ばれました。2013年6月に設計作業が始まり、あらゆる課題について検討が行われ、2014年5月に基本設計まで完了しました。この時点で、当初のデザイン競技時の予算1300億円に対し、基本設計に基づく概算工事費は1625億円と発表されました。この額ならばさらに実施設計段階でコストを抑える調整を行っていくことで実現可能と認識しました。

基本設計により1625億円で実現可能だとの工事費が提出され、事業者による確認がなされた後、消費税増税と物価上昇にともなう工事費の上昇分は理解できますが、それ以外の大幅なコストアップにつながった項目の詳細について、また、基本設計以降の実施設計における設計プロセスについては承知しておりません。更なる説明が求められていると思います。

そして発注者である日本スポーツ振興センターの強いリーダーシップのもと、設計チーム、建設チームが、さらなる知恵を可能な限り出し合い一丸となって取り組むことで、最善の結果が導かれ、未来に受け継がれるべき新国立競技場が完成することを切に願っています。

2015年7月16日

新国立競技場基本構想国際デザイン競技

審査委員長 安藤忠雄

(弁護士ドットコムニュース)

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