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新卒選考「8月解禁ルール」を破る企業が「半数以上」ーー法律で強制できないのか?
写真:写真AC

新卒選考「8月解禁ルール」を破る企業が「半数以上」ーー法律で強制できないのか?

前年に比べて時期が「後ろ倒し」となった企業の新卒採用。2016年卒業予定の大学生向けの採用活動が3月に始まり、会社説明会の会場はリクルートスーツ姿の学生でにぎわっている。

政府の要請を受けて経団連が定めた「採用選考に関する指針」では、今回の採用活動からスケジュールを見直し、採用広報活動は従来よりも3カ月遅い3月から、面接や内定といった選考活動は4カ月遅い8月からとなった。

ところが、リクルートキャリアが発表した「就職白書2015」によると、従業員5人以上の企業3989社を対象にした調査(昨年12月〜今年1月)で、8月の選考開始までに面接を行うと回答した企業が65.6%、内々定や内定を出すと回答した企業が52.2%にのぼった。

経団連の定めた選考スケジュールは「指針」にすぎず、強制力があるわけではない。だが、半数以上の企業が守らないような指針に意味はあるのだろうか。ネット上には「守らせたいなら罰則を設ければいい」という声もある。法律を定めて、採用スケジュールを企業に強制することはできないのだろうか。大部博之弁護士に聞いた。

●「採用の自由」と「職業選択の自由」

「確かに、経団連が定めた『採用選考に関する指針』には、法的な強制力はありません。これに従わない会社が出ても、おかしくないでしょう」

大部弁護士はこのように切り出した。では、企業に採用活動の「解禁ルール」を守らせるため、罰則つきの法律を定めて、スケジュールを強制することはできないのか。

「もし、就職活動の解禁ルールに関する法律ができるとすれば、その立法趣旨は、端的にいえば、大学生が学業に専念できるようにすることでしょう。

しかし、法律による規制となると、企業からすれば、いつ、どんな人材を、何人採用するかといった『採用の自由』が制限されることになります。また、学生からすれば、職業選択の自由の一環としての『就職活動の自由』が制限されることになります」

企業と学生のどちらにとっても、解禁ルールを法律で規制することには、デメリットがありそうだ。

●ルールとして機能していない?

「ましてや、罰則も伴うとなると、過度な制限として、そのような法律自体が憲法違反とされる可能性があります。そのため、罰則を伴う法規制まで行うのは難しいと思われます」

大部弁護士は「そういう意味で、国が経済団体に自主規制を促すという現状のやり方は、人権制限に配慮した苦肉の策でしょう」と指摘する。

とはいえ、現状では半数以上の企業が、面接開始の時期や内定・内々定を出す時期のルールを守る気がないようだ。もはや、ルールとして機能していないのではないか。

「こうしたルール違反が起きるのは、やはりルールで定めたスケジュールに無理があるからとしか、言いようがありません。

無理な要請をしても聞き入れられないのは、自然の法理です。政府としては、もう少し段階を経て、企業の理解を得ながら、徐々に要求レベルに近づける要請をしていくしかないでしょう」

大部弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

大部 博之
大部 博之(おおべ ひろゆき)弁護士 小笠原六川国際総合法律事務所
2006年弁護士登録。東京大学法学部卒。成城大学法学部講師。主に企業法務、訴訟を扱う。

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