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東京で一番おいしい「炊き出し」はどんな味?人見知り記者が「ボランティア」してみた
ほっかほかのぶっかけ飯、記者は2杯おかわりした。

東京で一番おいしい「炊き出し」はどんな味?人見知り記者が「ボランティア」してみた

2014年も押し迫った12月29日。東京・池袋の高層ビルの合間にある東池袋中央公園。ツンと冷えた風が吹く公園の一角で、吐く息の寒々しさとは真逆のあたたかい湯気が、ドンブリからもうもうと立ち上がっている。ホームレス状態の人たちに振る舞われる「炊き出し」だ。

今日のメニューは、野菜スープのぶっかけご飯。1.5膳分はあろうかという大盛りのご飯に、さまざまな野菜が入ったスープがたっぷりかけられている。料理を受け取った人たちは、寒さと乾燥で少し赤くなった顔に、満面の笑みを浮かべた——。

年末になると生活困窮者への炊き出しのニュースを耳にするが、実際にはどんな感じなのだろう。そう思って、ネットで検索したら、「東京で一番おいしい炊き出し」をふるまうというボランティアグループ「TENOHASI」のサイトが見つかった。

記者は「超」がつくほどの人見知りで、この手のボランティアをした経験もなかったが、自分で体験しながら炊き出しの現場を見てみたいと思った。ボランティア募集のページを見ると「アポなし」「都合のいい時間」「1回だけ」すべてOK、と書いてあり、気楽に参加できそうだ。

年末の炊き出しにやってくるのは、どんな人たちなのか。「東京で一番おいしい」というが、どんな味がするのか。ボランティアって、どれくらい大変なのか。そんなことを確かめたくて、ボランティアに参加してみた。(取材・執筆/瀬戸佐和子)

●20人で「下ごしらえ」を開始

12月29日の午前11時。冷たい雨が降るなか、集合場所として指定された文京区の寺院の境内に行くと、ボランティアの人たちが調理場を設営していた。「TENOHASI」の越冬炊き出しは、別の場所で作った料理を配布場所に持っていく形式だ。

寺の庭先にイベント用のテントが建てられ、野菜の下ごしらえをしたり、ご飯やスープを煮炊きする炊事場が作られた。総勢20人ほどのボランティアは3つのグループに分かれ、米とぎや野菜の下ごしらえを始めた。記者が担当したのは、タマネギの皮むきだ。8人の男女が、タマネギ20キロが入ったダンボール箱と、大きな空のプラスティックケースを取り囲んだ。

ビールケースに腰掛けて、ダンボールから取りだしたタマネギの茶色い皮を手でむき、皮は足下のバケツに入れる。さらに、包丁で上のへたと底の芯をえぐり取り、処理が終わったタマネギからプラスティックケースに詰めていく。

料理が苦手な記者がタマネギをむくのは、1年に1回あるかないか。包丁も使い慣れていないため、1個を処理するのに時間がかかったが、隣の40代の主婦は手際よく皮をむいている。「早くむくコツとかあるんですか?」と思い切ってたずねると、「うーん、慣れかなあ。でも、このタマネギむきにくいですよ」とのことだ。

それなら、26歳独身の料理下手が苦戦しても仕方ないかと、マイペースで作業することにした。20分後、全部で100玉以上のタマネギの皮むきが完了した。

●カントリーマアムで休憩

作業場のすぐ近くには、コーヒーやココア、お菓子が置かれた机があって、疲れたらいつでも休憩できるようになっていた。その周りに3〜4人が集まって、好きなドリンクを飲みながら「何回も参加してるんですか?」「今日はどんなきっかけで来たの?」と世間話をしている。

そんなときでも、記者は「人見知りモード」が発動してしまい、ボランティア同士で盛り上がっている会話の輪に入っていけない。仕方なく、1人でバニラ味のカントリーマアムを食べながら、会話を盗み聞き。耳に入ってきた情報から察するに、この日のボランティアには、さまざまなバックグラウンドの人たちが参加しているようだった。

「貧困と人権に関する授業で活動を知って、興味を持った」という女子大生や、「TENOHASI」の路上生活者支援をテーマにした演劇を上演したことがあるという劇団員の女性。それに、看護師や元記者、お母さんに連れられてきたという11歳の男の子もいた。年齢は10代から60代までと幅広く、男性よりも女性がやや多かった。

ピンクの登山服でしっかり防寒した60代の女性は、今回が初めての参加だという。昼の食事休憩のときには「家だとジジババ二人しかいないから、みんなで食べるとおいしいねっ」と、少女のように弾んだ声で話していた。その言葉に50代の女性が「ねー、遠足みたいだよね」と応える。だが、記者はうまい言葉が返せず、無言でうなずくのみだった。

そんな休憩をはさみつつ、料理の準備は順調に進んだ。作業開始から5時間後、200食分のスープ(ずんどう鍋5つ分)と180食分のご飯(直径1メートルの釜6つ分)という、見たこともないほど大量の食事ができあがった。

スープには、計100キロ以上の野菜が入っている。具の量が多いだけではない。その種類も、タマネギ、長ネギ、ニンジン、白菜、ブロッコリー、ズッキーニ、ヤングコーン、じゃがいも、鶏むね肉とバラエティ豊か。「路上生活は野菜不足になりがち」ということで、大量の野菜を入れたスープにしているのだ。

トラックにスープとご飯を積み込み、配食会場である東池袋中央公園に向かった。

●30分前にできた100人の行列

東池袋中央公園は、高層ビル「サンシャイン60」の真裏にある。池袋駅からだと、にぎやかなサンシャイン通りを抜けて、首都高速5号線の高架をくぐったところだ。公園中央に大きな池があり、その池を囲むように小道がある。小道を奥に進むと、ビニールシートで覆った段ボールハウスが集中する一角が見えてくる。

この公園ではふだん、20人ほどが暮らしているという。配食がスタートするのは18時からだったが、その30分前には100人近くが並んでいた。聞けば、公園でだけでなく、池袋駅周辺で路上生活を送る人も来ているのだそうだ。

並んでいる人たちを見ると、黒いベンチコート姿の男性が多い。頭にはニット帽を被っている。中にはツイードのジャケットを着た人や、赤いふちのサングラスをかけた人、目にも鮮やかな白黒ストライプのズボンをはいた人など、服装にこだわりが感じられる人もいた。年齢は40代〜70代の人がほとんどで、少し薄くなった髪に白いものがまじっている。女性もわずかだが、見かけた。

配食が始まり、野菜スープをよそっていく。「具だけ。スープなしで」「野菜多めね。あふれるくらい」「スープいっぱいかけて」と好みを口にする人もいる。希望通りによそって手渡すと「ありがとうございます」と言われてうれしい。口が重い記者もいつの間にか「熱いから気をつけて」と気遣いを口にできるようになっていた。

●野菜と肉のエキスがしみわたる

彼らが食べている間、ボランティアも同じ料理を口に運んだ。

野菜スープの「ぶっかけご飯」は、野菜のごった煮といった見た目で、正直なところ「おいししそう」とは言いがたい。しかし、ほかほかの湯気から立ち上る醤油の香ばしさに誘われて食べてみると、まず、タマネギの優しい甘みが口いっぱいに広がる。じっくり煮込まれた鶏肉からは動物性の強烈な旨味。冷たくなった身体と少し疲れた心に、野菜と肉のエキスがしみわたる。わき目もふらずに黙々と食べ、勢いで2杯目をおかわりした。

用意していたご飯とスープが空になったのが19時少し前。およそ200人分の食事が、1時間足らずですべてなくなった。ボランティアは後片付けと反省会を終えて、19時30分に解散した。

自宅への帰り道。人見知りが克服できたか分からないけれど、初対面の人と輪になってタマネギをむき、文字通り同じ釜の飯を食べたことで、他人との間の高い壁が少しだけ崩れた気がした。きっと3回くらいは、目と目を合わせて笑いあえたと思う。

路上生活をしている人々と、こんなに近くで接したのも初めてだった。当初は、ひげも髪も伸び放題、衣服はボロボロの人をイメージしていたが、実際はニットのセーターにジーンズなど、こざっぱりした身なりの人が少なくなく、見た目では路上生活者と分からない人も少なくなかった。「ありがとー」とうれしそうにドンブリを受け取っていったおじいちゃんの、人懐っこい笑顔が忘れられない。

腰と腹と尻に貼った4枚のカイロはとっくに冷えて固くなっていたけど、身体と心はホカホカしていた。

(弁護士ドットコムニュース)

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