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なぜ小保方さんは「博士号取消」でないのか?〜早大理工出身「理系弁護士」が読み解く
STAP細胞の問題について釈明記者会見にのぞむ小保方晴子さん(4月9日撮影)

なぜ小保方さんは「博士号取消」でないのか?〜早大理工出身「理系弁護士」が読み解く

理化学研究所の小保方晴子ユニットリーダーが、大学院生時代に提出した博士論文の問題について、早稲田大学の調査委員会は7月17日、調査結果を公表した。

調査委員会は、小保方さんの博士論文に複数の「不正」があったと認定しつつも、「学位取消には該当しない」と結論づけたが、ネット上では「理解できない」という批判の声が渦巻いている。

なぜ、調査委員会はそんな結論に到達したのか。記者会見場で配布された資料を、早大理工学部出身の三平聡史弁護士に分析してもらった。

●「不正行為」と「学位の授与」に因果関係がない?

「調査委員会は、小保方氏の行為が、学位取消に『該当しない』という見解を示しました。

その理由は『著作権侵害等の不正行為』と『学位の授与』に『因果関係がない』というものでした」

博士論文での不正と学位が授与されたこととの間に「因果関係がない」とは、いったいどういう意味だろうか?

「その部分の理論的構成は、複雑です。

まず最初に重要なのは、小保方氏の『不正』の程度が重く、適正な審査がなされていれば不合格=学位が授与されないと、調査委員会も明確に認定していることです。

これだけを見ると、不正行為と学位授与には『因果関係がある』。つまり、不正行為があったから、学位も授与されないという結論になりそうにも見えます。

しかし、結論としては『因果関係なし』となっています」

そこがわからない。

●「間違って草稿を提出した」と認定

「その背景には、2つのアクロバティックな判断があります。ひとつめは『過失は不正の方法でない』としたことです。

早稲田大学は、学位が取り消される要件について、『不正の方法により学位の授与を受けた事実が判明したとき』としています(同大学位規則23条)。

調査委は、この『不正の方法』について、『過失は含まれない』と解釈しました。

そして、小保方さんの主張を受け入れて、『提出された博士論文は草稿を誤って提出したものだった(過失だった)』と認めました。

その結果、『著作権侵害の大部分は考慮から外す』という操作がなされたのです。それに基づいて、『不正』の影響は小さかった、と判断したものと考えられます」

今回の博士論文には、数々の問題点が指摘されているが、調査委が「提出されたのは草稿だった」と認定したことによって、大きな問題点のいくつかが「不正の方法にはあたらない」と認定され、その結果、「不正の影響は小さかった」とされたようだ。

●「審査の不備が大きく影響した」という評価

「ふたつめの判断は、今回の博士論文が、誤った形で博論審査に合格し、学位が授与されてしまったことについて、『審査体制の重大な欠陥・不備』との因果関係が濃い、と判断したことです」

それはつまり、小保方博士論文が合格したのは、主に審査した側がダメだったから、ということだろうか?

「そうですね。つまり、『誤った博士論文審査の合格・学位授与』が起きてしまったことの原因を2つ並べて、(1)不正の影響は小さい、(2)審査の不備の影響は大きい、と判断したわけです」

●最終判断は調査委員会ではなく「大学」が出す

こうした判断は妥当?

「以上の理論的判断・解釈論は、それぞれが『解釈の幅が大きい』ものと言えます。

評価の幅が大きく、判断する人や価値観によって判断結果のブレが大きいです。サイエンス的に言えば再現性が低いということです。

全体を見ると『甘い審査でいったん合格してしまえば、後から不備が発覚しても撤回されない』というような印象を受けます・・・と思ったら、調査委の発表資料も、最後に言い訳的にそのようにコメントしていますね」

三平弁護士は、こう解説したうえで、次のようにつけ加えていた。

「ただし、今回示された調査委員会の調査結果は、あくまでも『調査委員会の見解・判断』です。『大学の判断』とイコールではありません。

肝心の『大学の判断』については、『調査委員会の調査結果』を踏まえて考慮・判断することになります。

『学校を卒業していないという悪夢』から、小保方氏は、まだ完全に醒めたわけではないのです」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

三平 聡史
三平 聡史(みひら さとし)弁護士 弁護士法人みずほ中央法律事務所
早稲田大学理工学部出身の理系弁護士。”サイエンス、事業、労働、恋愛は適正な競争による自由市場により発展、最適化される”との信念で、新テクノロジー・ベンチャーの分野に力を入れる。twitterアカウントは@satoshimihira。

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