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福山市のホテル火災、行政機関に責任はあるのか

福山市のホテル火災、行政機関に責任はあるのか

5月13日に広島県福山市の「ホテルプリンス」で7人が死亡し3人が重症を負った火災事故が発生した。事故の詳しい原因はまだ明らかになっていないが、ホテルの窓にベニヤ板が張られていたことで室内に煙が充満しやすくなっていたことや消火活動の妨げになったこと、またホテルそのものが避難しにくい構造になっていたことなど、同ホテルが建築基準法上の問題点を複数抱えていたことが報じられている。

福山市はこれまで同ホテルに対し、防火査察にて排煙設備の不備などを指摘し改善を促してきたとのことだが、ホテル側に改善は見られなかったようだ。また福山地区消防組合も2003年に立ち入り検査を行い、消防訓練を実施していないことなど消防法に基づく不備を見つけていたとのことだが、その後は立ち入り検査を行なわず、改善されたかどうかの確認はしていなかったということである。

もし今回の火災事故による被害がこれほど大きくなってしまったことの一因として、これらの指摘されていた建築上の不備による影響があるのであれば、ホテルの責任は当然として、数年前からその不備を発見していた行政機関にも法的な責任はあるのだろうか。

行政事件について詳しい村田正人弁護士の解説によると、

「行政の責任を考えるにあたって、筑豊じん肺訴訟の最高裁判所判決(平成16年4月27日)は、鉱山保安法に基づく国の規制権限の不行使による国家賠償責任の成立の有無が争われた事件で、『規制の権限を直ちに行使しなかったことは、その趣旨、目的に照らし、著しく合理性を欠くものであって、国家賠償法1条1項の適用上違法というべきである』と判示しています。」

「よって本件でも、消防法や建築基準法の規定に照らして行政がホテルに不備を改善させなかったことが著しく合理性を欠くものであるときは、行政の損害賠償責任が発生します。」

ということで、今回の火災事故の詳細な調査の結果次第では、規制権限がありながらもホテルに建築上の不備を改善させなかった行政機関の対応は著しく合理性を欠いていたと判断される可能性があり、その場合には火災の被害者や犠牲者の遺族は行政機関に対しても損害賠償請求をすることが可能になる。

残念ながらこのような建築基準法上の問題点などが改善されていないホテルなどの建築物は全国にあるようで、今後また同様の火災事故が発生する懸念は払拭されていない。 

今回の火災事故を機に、あらためて火災に対する建築物の安全性が見直されることを願うばかりである。 

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

村田 正人
村田 正人(むらた まさと)弁護士 三重合同法律事務所
1948年、三重県津市生まれ。76年に弁護士登録(三重護士会)。2003年三重弁護士会会長。日弁連公害対策環境保全委員会委員。日本環境法律家連盟理事。ゴミ弁連会員。趣味は海外旅行。

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