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生活保護法「改正案」の問題点はどこにあるのか? 弁護士に聞いた
生活保護法「改正案」は、衆議院を賛成多数で通過し、現在、参議院で審議中

生活保護法「改正案」の問題点はどこにあるのか? 弁護士に聞いた

生活保護申請のハードルを上げ、不正受給時の罰則を強化する生活保護法改正案が国会で審議されている。生活保護の受給者が過去最多となったことや、お笑いタレントの扶養問題をきっかけとする「生活保護バッシング」を受けた動きだ。

もともと自民・公明の与党が提出した改正案では、生活保護申請のときに「資産や収入」を記した申請書を提出することや、必要な書類を添付することが求められていた。しかし、これは「実質的に申請を拒むことにつながる」という批判があがった。そして、野党の対案を受け入れる形で、「口頭での申請も可能」「事情があれば書類は保護決定までに提出すれば良い」などの修正が入った。与野党が修正合意したため、このままだと可決される見込みが高い。

しかし、貧困問題にとりくむ生活保護問題対策全国会議は、この修正は不十分だと指摘している。法案は6月4日に衆議院を賛成多数で通過し、現在参議院で審議中だが・・・・生活保護法改正案のどこに問題があるといえるのか、同法案に反対する尾藤廣喜弁護士に聞いた。

●役所が違法に申請をはねつける「水際作戦」を防げない

「生活保護法改正法案は『改悪』です」

尾藤弁護士はキッパリと、こう断言する。

「現行法では、生活保護を申請するときに、『保護が必要かどうかを判定するための書類一式』をそろえて提出する必要はありません。書面でなく、口頭での申請も可能です」

その理由は、生活保護が必要なほど「困っている」人たちにとっては、必要書類をそろえることそのものが難しく、想像以上に時間がかかることも多いからだ。しかし、保護申請の現場では、その実態とは全く逆のことが起きてきたという。

「申請の現場では、なんだかんだと理由を付けて生活保護申請を受け付けない『水際作戦』が横行しています。たとえば、福祉事務所の窓口で保護申請をしたいと言っても、申請のための書類を渡してもらえなかったり、本来申請時には必要ない書類の提出が求められるなどといったケースが数多く報告されています。

これは、行政の違法行為で大問題です。ところが今回の改正案は、保護の申請にあたって、口頭ではなく、書面による申請と資料の添付を義務づけました(24条1項、2項)。これでは逆に水際作戦を正当化することになりかねません」

こういった批判を受け、衆議院では自民党・公明党と民主党、みんなの党の協議で『特別の事情があるとき』は、書面によらなくても良いし、書類が揃わなくてもよいという修正が入ったが・・・・。

「原則として、書類が必要だという点は変わっていません。これで、はたして水際作戦が防げるかどうか、疑問が残る内容です」

●扶養義務の実質的な大幅強化は、多大な萎縮効果を生む

問題点はそれだけではない。

「親族による扶養が受けられないことを、生活保護の事実上の要件としていること(案24条8項、28条2項、29条)も大問題です。これまでも親族には『扶養義務』がありましたが、『可能なら』という程度のものでした。ところが改正案では、この扶養義務者に対するプレッシャーが著しく強まっています」

改正案では、福祉事務所などが次のような報告を求めることが可能になっているという。

(1)扶養義務者に対して資産や収入の状況についての報告を求めること

(2)扶養義務者の雇用主や金融機関などに対して、書類閲覧や資料提供・報告を求めること

つまり、単に親族に通知がいくだけでなく、親族の収入や資産についての調査が、親族の働いている会社、使っている銀行も巻き込んで行われるということだ。

「これでは、生活保護が必要な人たちが、親族間のトラブルを怖れるあまり、申請をためらってしまう『萎縮効果』が今以上に大きくなる。憲法で保障された生存権の侵害につながる可能性が極めて大きいのです」

尾藤弁護士は、生活保護利用者について後発医薬品(ジェネリック)の使用を事実上強制していること(34条3項)についても、「差別医療を強制する危険性が高く、医療のあり方の根本を変えるもので問題」と指摘。「改正案の問題点を一層広く訴えていく」と話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

尾藤 廣喜
尾藤 廣喜(びとう ひろき)弁護士 鴨川法律事務所
京都弁護士会・日本弁護士連合会貧困問題対策本部副本部長、生活保護問題対策全国会議代表幹事、全国生活保護裁判連絡会代表委員 http://seikatuhogotaisaku.blog.fc2.com/

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