遺骨を海にまく「散骨」といえば、人気小説を映画化した『世界の中心で、愛をさけぶ』のワンシーンを思い浮かべる人もいるかもしれない。少し前にも、亡くなった芸能人の遺骨が海にまかれたというニュースがあったが、散骨は故人の要望もあり、葬送方法の一つとして広まりつつあるようだ。
だが、こうした散骨をはっきりと認めた法律があるわけではない。法務省が「節度を持って行われる限り、違法ではない」という非公式な見解を示しているにすぎない。散骨は海上などで行われるが、そのためには遺骨を粉状に砕く「粉骨」をする必要があるという。遺族の中には、自分の手で「粉骨」を行う人もいるそうだ。
だが、遺骨を砕くのは、法的に問題ないのだろうか。刑法には「死体損壊罪」という罪があるが、遺骨を破壊すると、犯罪になってしまうのではないか。田村勇人弁護士に聞いた。
●散骨に必要な範囲ならば「粉骨」も問題なし
「散骨のためとはいえ、遺骨を破壊することは、形式的には、死体損壊罪(刑法190条)に該当します。しかし、散骨に必要な範囲の行為であれば、違法行為にはなりません」
こう田村弁護士は説明する。なぜ違法行為にならないのだろうか。
「法務省は非公式ながら、『節度を持って散骨が行われる限り、違法ではない』という見解を示しています。『節度を持って』とは、『遺骨とわからないように』という意味で使っています。つまり、散骨の際には、細かいパウダー状にしたり、布で包んで散骨するといった行為を、法務省自体が求めているのです」
法務省が「粉骨」を認めているのなら、大丈夫そうだ。
「はい。散骨するのが目的の場合、形式的に死体損壊罪に該当しても、『適法な散骨に不可欠の行為』といえます。ですから、違法性はなく、処罰されません。法律上は、正当行為(刑法35条)にあたるか、または可罰的な違法性がないとされるでしょう」
●正当化されるのは「散骨目的」に限られる
「しかし、あくまで正当化されるのは、『散骨の目的』で『散骨に適した形』にするための範囲の行為です。そこから逸脱した内容の粉骨は、違法とされる可能性があるので、注意が必要です」
どんな場合に違法となりそうだろうか。
「たとえば、人前で粉骨するような場合ですね。それから、あまり細かく粉骨せず、他人から人体を想像させるような大きさのまま、散骨するような場合などでしょうか。こうした場合は、違法とされる可能性があるので、注意してください」
粉骨を計画している人は、故人の尊厳を守るためにも、敬虔な気持ちを持ってのぞみたいものだ。