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性的マイノリティ「LGBT」が「親になる」ために必要なことは――弁護士らが考えた
「LGBTが親になること」をテーマにしたシンポジウムの様子。「レインボーフォスターケア」の代表・藤めぐみさん(左)、全国里親会副会長の木ノ内博道さん(中央)、山下敏雅弁護士(右)

性的マイノリティ「LGBT」が「親になる」ために必要なことは――弁護士らが考えた

同性愛のカップルによる子育てをテーマとした米国映画「チョコレートドーナツ」が4月19日から全国の映画館で上映される。それにさきがけて、映画の試写会と「LGBTが親になること」をテーマにしたシンポジウムが東京・渋谷で開かれた。(取材・構成/松岡瑛理)

LGBTとは、女性が女性を好きになる「レズビアン」、男性が男性を好きになる「ゲイ」、どちらも好きになる「バイセクシュアル」、心と体の性が一致しない「トランスジェンダー(性同一性障害者ら)」の英語の頭文字をとった総称だ(コトバンクより)。

「チョコレートドーナツ」の舞台は、1979年のカリフォルニア。ショーダンサーと弁護士のゲイカップルが、母の愛情を受けず育ったダウン症の少年を、とある事情から引き取って育てることになる。しかし、養育者が同性愛者だと明らかになるや否や、2人は少年から引き離され、法廷での闘いを余儀なくされる――というストーリーだ。

試写会後のシンポジウムには、LGBTと里親の問題を考える団体「レインボーフォスターケア」の代表・藤めぐみさんのほか、全国里親会副会長の木ノ内博道さんと、性同一性障害の裁判で代理人をつとめた経験をもつ山下敏雅弁護士が登壇し、「LGBTが親になるためには、どんな環境が必要なのか」を議論した。

●「日本では、同性愛者は無視されている」

――シンポジウムで焦点の1つとなったのが、「チョコレートドーナツ」の舞台である35年前のアメリカと比べて、今の日本の「LGBTをめぐる環境」をどう見るのかという点だ。

山下:当時のカリフォルニアと今の日本の共通点の第一は、同性婚が認められないことです。第二に、同性のカップルが子どもを育てられない。事実上の連れ子であったり、法律上は他人同士だけど一緒に暮らしているという人はいますが、法律的には、それが認められていない・・・という状況が今の日本であり、当時のカリフォルニアですね。

藤:私は、今の日本は(当時のアメリカよりも)遅れているのではないかと思います。(映画のなかで)カリフォルニア州だと「親権者の署名」があれば、里親になるのに配偶者の有無は問わないというのがありましたよね。今、日本だと都道府県別で里親基準があって、東京都だと「(異性間の)夫婦」が基本なんです。都に問い合わせをしたんですけど、同性愛者は「想定していない」という答えでした。

木ノ内:日本では同性愛者は「無視」されている。里親認定は、都道府県の知事がやるんですけど、認定のときに、婚姻関係にあるかどうかを見る。LGBTは、カップルとして見られないんですよね。そういうところで言えば、「遅れてる」と言っていいんでしょうね。制度がまな板に乗っていない段階だと思います。

●「愛というのは理屈じゃない」

――日本では、同性愛者が置かれた現実が制度にきちんと反映されていない――三人の認識はそういう点で共通していた。

藤:レインボーフォスターケアの活動をしていると、「ゲイカップルは男の子に性的虐待をするんじゃないか」「(虐待)しないことの証明をしてください」とよく言われます。そんな偏見にいちいち答えなくてはいけないのかと悩みます。

木ノ内:アメリカの場合、LGBTが子育てすることで性的に影響があるのかとか、きちんと調査をして、「問題がない」というエビデンス(証明)を出したうえで、制度を作っていくわけですね。一方、日本は、何もない状態で(ゲイカップルを)独身者扱いにして、里親に登録している。本来なら、大学の先生が、たとえば「集団養育には問題がある」といったエビデンスを出してほしい。現場から見ると、日本の場合は、何か資料集めて論文を書いておしまい、となっているように見えます。

山下:「子どものため」と言いながら、制度について、すごく抽象的で空疎な議論をしている。裁判所では、もっと具体的に、この当事者、この子どもにとってプラスなのかという判断をするんですね。そういう生の事実から離れた議論をしている。それが必要とされる人たちにとってマイナスなのだとしたら、「差別・偏見」ということなのだろうと思います。

――山下弁護士はこのように述べたうえで、裁判は一般的に「理屈の世界」と思われているが、司法の本来の役割は「事実に法律を当てはめて紛争を解決すること」にあり、「実際にどのような事実があったのかが、すごく重要だ」と強調していた。

山下:「事実」がまずあって、そこから裁判官は考え出す。裁判って意外と理屈じゃなくて、「生の事実」が大事なんです。今回の映画は、「当事者の思いは理屈じゃない」「愛というのは理屈じゃない」ということを、本当によく伝えてくれていると思いました。

●「LGBTをきちんとした人間として認めてほしい」

――日本では、「LGBTが親になること」が制度として認められるには、まだいろいろなハードルがあるようだ。社会を変えていくためには何が必要なのか。シンポジウムの終盤、三人がそれぞれの思いを語った。

藤:(今後は)偏見というものをなくしていきたいと思っています。たとえば、行政の分野では、裁量を持った職員個人がLGBTに対して偏見を持っていたら、何も進まない。日本でもアメリカでも、お子さんを育てているLGBTはたくさんいる。そういった事例を含めて、情報提供をしていきたい。

木ノ内:「里親支援が足りないから、LGBTも里親になってほしい」という言い方がされることがあります。じゃあ、里親支援が十分なら、LGBTはいらないのか。まず、LGBTの人たちをきちんとした人間として認めたうえで、里親認定をしてもらいたいと思います。

山下:大事なのは、当事者が「おかしい」と思ったときに、声をかけること。そこで支える原動力はやっぱり「生の事実」。家族として生きたい当事者の思いが見えないといけない。でも、セクシャル・マイノリティ当事者は、なかなか顔を出して、生の声を伝えることができない。だから今回、映画という手段でそこが伝わっていくのは、本当に大事だなと思っています。

(弁護士ドットコムニュース)

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