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体罰を容認する米国の「お尻ペンペン法案」 教育のために「体罰」を認めるべきか?
生徒と教師の関係は「信頼」で築くのが理想だが・・・

体罰を容認する米国の「お尻ペンペン法案」 教育のために「体罰」を認めるべきか?

「言うこと聞かなきゃ、お尻ペンペンするよ!」。日本では、ひと昔前のものになったといえる子どもへのお仕置き方法だ。そんな「お尻ペンペン」を法的に容認する法案が、アメリカの地方議会に提出され、話題となっている。

CNNによると、この「お尻ペンペン合法化」法案は、アメリカ中西部のカンザス州議会に提出された。教師や保護者が、言うことを聞かない子どもに対して、「平手で服の上から臀部(でんぶ)を叩くことを10回まで認める」という内容だ。子どもの肌が赤くなったり、あざができることまで許されるという。

体罰問題で揺れる日本では、ちょっと考えられないような法案だが、アメリカでは一定の条件のもとで、こうした体罰が認められている州がほかにもあるのだという。日本の社会でも、教育的な観点から、子どもに体罰を加えることを容認していくべきなのだろうか。子どもの人権にくわしい杉浦ひとみ弁護士に聞いた。

●学校教育法で「体罰」は禁止されている

「アメリカでは、約3分の1にあたる19の州で体罰が合法とされていると聞いています。その多くは、木の板を使って子どものお尻を叩く『パドリング』という方法です」

このように杉浦弁護士は指摘する。つまり、「お尻ペンペン」は、アメリカではすでにいくつもの州で合法のものとされているのだ。

「しかし、日本では、学校教育法11条で、教師による体罰が禁止されています。この点、体罰に教育効果がなければ、もとより禁止すべきだといえます。ただ、もし教育効果があるのだとすると、暴力行行為であっても『相当性がある』として、違法性がなくなる余地がないわけではありません」

そうなると、体罰に教育効果があるのかどうかが問題となるが、その点についてはどう考えればいいのだろう。

「たとえば、スポーツの世界で体罰を経験してきた元プロ野球選手の桑田真澄氏は、体罰の教育効果について、次のように語っています。

“体罰を受けた子は、『何をしたら殴られないで済むだろう』という後ろ向きな思考に陥る。それでは子どもの自立心が育たず、指示されたことしかやらない。自分でプレーの判断ができず、よい選手にはなれない。日常生活でも、スポーツで養うべき判断力や精神力を生かせないだろう。私は、体罰を受けなかった高校時代に一番成長した。伝わるかどうか分からない暴力より、指導者が教養を積んで伝えた方が確実です”」

●体罰は「逸脱」してしまう危険性が大きい

杉浦弁護士はこう述べたうえで、学校の教育現場から寄せられた声にも言及する。

「もし仮に、体罰に教育効果があって『相当性』が認められたとしても、実際の教育現場では、相当性を逸脱する危険性が大きいとされています。たとえば、宮崎県教育委員会がまとめた体罰防止の研修報告書では、次のような問題点が指摘されています。

・ 教師自身が感情のコントロールができない。

・ 自分が、絶対だ!という意識が強すぎる。熱心のあまりに体罰が起きる。

・ 部活動で、強くするために精神的に追い込むことが必要と考えている人がいる。

・ 自分達も、体罰を受けて育っているという経験も持っている。

・ 一人の先生に負担がいったり、生徒指導を任せたりという環境が体罰に繋がっている。

・ 体罰を与えることで、教師の熱心さを伝えようとする考えがある。

・ 口で説得するより、体罰による恐怖で指導した方が手っ取り早いという考えが根底にある」

このような教育現場の意見を踏まえると、体罰を安易に肯定するのは危険だといえそうだ。

日本では「体罰か否か」の限界が争われたケースがあり、教師の行為が体罰にあたるかどうかは、その事件の具体的な状況によって判断されることになるとした、最高裁判例もある(2009年4月28日第三小法廷)。

杉浦弁護士は、「この『判断』いかんによっては、体罰禁止がなし崩しになる恐れもあります」と警鐘を鳴らす。そのうえで、「体罰を禁止する原則は正しいと考えます」と語っていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

杉浦 ひとみ
杉浦 ひとみ(すぎうら ひとみ)弁護士 東京アドヴォカシー法律事務所
子どもの問題に関わりたくて弁護士になる。子どもを中核に被害者問題、DV等の家庭問題、教育問題など、絡み合う社会の問題にかかわる。少年院退院者同士が相互支援する「セカンドチャンス!」、施設内の子どもの性逸脱を考える「性教育研究会」、市民の平和活動「コスタリカに学ぶ会」等に関わる。

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