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「少年犯罪は厳罰化しても減少しない」 少年法改正の動きに弁護士が「異論」
少年犯罪の「厳罰化」の必要性について、国会で十分に議論されることが望まれる

「少年犯罪は厳罰化しても減少しない」 少年法改正の動きに弁護士が「異論」

少年犯罪の「厳罰化」を進める少年法改正案が、安倍内閣によって今国会に提出された。

現行の少年法では、犯行時に18歳未満の少年に対しては、成人なら無期懲役になるようなケースでも、10~15年の有期刑(懲役・禁錮)を言い渡すことができると定められている。改正案の柱は、この上限を20年に引き上げる内容だ。犯罪被害者団体を中心に、「成人の有期刑が最長30年なのに比べて、少年事件の量刑が軽すぎる」という声が出ていることが背景にあるという。

改正案は同時に、犯罪をおかした少年に国費で弁護士をつける「国選付添人制度」の対象を、殺人や強盗などから、窃盗、傷害などにまで範囲を広げ、「少年の権利保護」の方向も示した。

しかし、厳罰化に対しては根強い異論の声もある。今回の改正案について、少年犯罪にくわしい中田憲悟弁護士に意見を聞いた。

●少年法改正による「厳罰化」は2000年にも行われた

「少年法は2000年に、厳罰化を意識して大きく改正されました。

1997年の神戸連続児童殺傷事件(2名死亡、3名負傷)、2000年の西鉄バスジャック事件(1名死亡、2名負傷)といった、少年が起こした凶悪重大事件の続発を受けた改正でした。

この改正で注目すべき点は、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた事件(殺人、傷害致死、強盗殺人など)で、犯行時16歳以上の少年については、少年事件として家庭裁判所で処理するのではなく、原則として『成人と同じ刑事裁判の手続き』によって処理することになった点です」

家庭裁判所の手続きと、刑事裁判の手続きは、どう違うのだろうか。

「その2つには、大きな違いがあります。

家庭裁判所の少年審判は非公開で、処分は少年院に送るか、保護観察として家庭において更生を図るか、といった流れになります。

一方、刑事裁判は公開の法廷で審理され、懲役刑などの『刑罰』が課せられることになります」

●「厳罰化」の効果はあったのか?

なぜ「厳罰化」がなされたのだろうか?

「2000年の厳罰化は、重大犯罪の発生を抑制するのが狙いでした。今回の改正案も、狙いは同じです。そこで、まず考えなければならないのは、『2000年の厳罰化で、重大事件は減少したといえるのか』という点です。

最近でも、少年が集団で被害者を殺害しようとしたり、実際に殺害してしまう事件が、度々発生しています。さらなる厳罰化を求める動きの背景には、こうした事件があるのでしょう。

しかし、この現状は、2000年の厳罰化によっても犯罪が減少しなかった結果だ、ともいえるのではないでしょうか」

●弁護士が指摘する少年犯罪の「2類型」

中田弁護士はなぜ、厳罰化が少年犯罪減少につながっていないと考えるのだろうか?

「私は、多くの少年事件にかかわり、故意によって被害者を死亡させてしまった事案も数件担当しています。こうした経験も踏まえて述べると、少年が非行を犯してしまう原因は、大きく2つの類型に分けることができると思います」

どんなものだろうか?

「1つ目は、発達障害が背景にあるケースです。広汎性発達障害などによって、悪いこだわりをもってしまい、たとえば『人を殺してみたい』といったこだわりから抜けられなくなって、多数の被害者を死傷させてしまったという場合です。

ただ、発達障害であれば犯罪を犯すというわけではなく、たまたま悪いこだわりをもってしまった結果だという点には注意が必要です。

このようなケースが、厳罰化によって減少するはずがありません。重要なのはむしろ、『悪いこだわりを持たないようにサポートすること』のはずです」

もう一方は?

「2つ目は、生育歴において健全な愛情を受けることができず、逆に激しい虐待を受けて育ったという場合です。

毎日のように、『お前はつまらん』とか『役に立たない』『生れて来なければよかったのに』などと罵られ、殴られ、蹴られて育った子は、自分のことを大切に思う気持ち、つまり自己肯定感が持てないままになってしまいます。

自分自身について『駄目な子』『悪い子』『地域でも、社会でも存在価値のない人間』などと思いこみ、投げやりな行動を取るようになってしまうのです。

社会が自分を大切にしてくれないという感覚を持ちながら成長すれば、社会のルールを守ろうといった意識(規範意識)が育つはずがありません。ついには、『どうでもいい。死刑にしてくれ』といった感情まで抱いてしまった少年もいました。

こうした少年たちに対して、厳罰化は、意味を持つのでしょうか。

私は、持たないと思います」

●必要なのは「児童虐待」を防ぐ仕組み

一方で、犯罪被害者側の主張については、どう考えるのだろうか?

「死亡した被害者の遺族の感情を考慮するならば、厳罰化へと働くことも十分に理解できます。しかしながら、被害者の感情を理解することと、そのような被害を出さないための方策とは区別しなければならないと思います。

単に被害感情から厳罰に処するという発想では、国家が被害者に成り代わって復讐を果たすということを意味するのではないでしょうか。

犯罪減少につながらない方策をとって、本来とるべき対策をおろそかにすれば、さらなる被害者の増加という、ゆゆしき事態を招いてしまうように思えてなりません」

被害者感情への配慮と、犯罪対策は分けるべきだ、という考えのようだ。それでは少年犯罪に対しては、どのような対策が望ましいと考えるのだろうか? 中田弁護士は次のように話していた。

「まずは、子どもの成育過程において、虐待等による愛情不足がなくなるように、子どもの虐待防止策を重視することが重要です。

そして、犯罪を犯してしまった者に対しても、単に懲役を科すだけでは不十分でしょう。二度と犯罪を犯すことがないように、治療的なものも含めた専門的な対処をすることで、再犯防止を重視していく仕組みが必要だと考えます」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

中田 憲悟
中田 憲悟(なかた けんご)弁護士 はばたき法律事務所
はばたき法律事務所所長 広島大学法科大学院教授(実務家みなし専任)

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