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2014年01月16日 16時41分

「児童虐待」を防ぐ切り札となりうるか? 「親権停止」とはどんな制度なのか

「児童虐待」を防ぐ切り札となりうるか? 「親権停止」とはどんな制度なのか

児童虐待が後を絶たない。厚生労働省によると毎年、約50人の児童が「虐待死」しているという。昨年12月上旬にも、生後7カ月の三女の頭をゆさぶるなどして死亡させた疑いで、愛知県の33歳の父親が逮捕されるという事件が報道されている。

年間6万件を超える虐待相談で、加害者の9割近くが「実の親」だとされる。「虐待ではなく、しつけだ」と無理な主張をする親もいる。児童相談所が子どもを保護しても、「親権」を持ち出して、子どもを連れ帰ろうとするケースもあるという。

民法には以前から、親の親権を完全になくす「親権喪失制度」があったが、親子関係を取り戻せなくなる恐れもあるため、利用が少なかった。そこで、激増する虐待に対応するため、親権を一時的に停止させる「親権停止」の制度が2011年から加わった。

この「親権停止制度」とは、いったいどのような内容で、どのような場合に使えるのだろうか。子どもの人権問題にくわしい中田憲悟弁護士に聞いた。

●子どもの「手術」に親権者が同意しない場合などに適用

「親権停止は、2011年の民法改正で初めて作られた制度です。親権者が子どもの利益を害するときに、『2年を超えない範囲内』で、親権を停止するという内容です」

中田弁護士はこのように述べる。具体的には、どのように使う制度なのだろうか。

「親権停止制度は、たとえば次のような場合に、非常に有効といえます。

1つは、子どもが病気となり、手術等の治療をすれば非常に高い確率で命を失わずに済むのに、親権者が宗教上や思想上の理由で手術に同意しないといったケースです。

こういった例では、たとえば一時的に親権を停止するとともに、未成年者後見人を選任し、親権者に代わって手術の同意をしてもらうことが可能です」

こうした場合、治療の間だけ「親権を一時的に停止」することが問題解決に繋がりそうだ。他にはどんな場合があるのだろうか?

「もう1つは、こんなケースです。

離婚によって母親が親権者となったが、子育てを放棄して児童養護施設に預けていた。ところが、実父が亡くなり、子どもに多額の保険金が入ってきたとたん、母親が親権を強調し、自分の銀行口座に入金するようにと主張し始めた――。

こうした事例では、母親が自分自身のためにお金を使ってしまう危険性がありますので、親権を停止して未成年後見人を選定し、後見人に財産管理を委ねたほうが安心です。私も実際に、似た事例で親権停止をしてもらったことがあります」

●緊急案件には向かない「親権停止制度」

では、親の日常的な虐待に対して、親権停止制度は有効に機能するのだろうか。

「もちろん、親権者が子どもに暴力をふるったり、食事を与えずに放置したりする虐待行為に対しても、親権停止制度は利用できる形になっています。

しかし、児童虐待の中でも、子どもが命を失うような緊急性が高い案件には、家庭裁判所による裁判手続を前提とする親権停止制度は不向きといえます。この制度だけでは、今にも命を落としたり、大怪我をしてしまうのではないかといった緊急事態には対応できないのです」

それでは、子どもが命を失う危険性のあるような緊急事態に対しては、どのように対応するべきなのだろうか?

「緊急案件については、警察の援助も得ながら、児童相談所に子どもを一時保護したうえで、家庭裁判所の承認を得て親子を分離し、子どもを児童養護施設に預けるという仕組みがあります。

ただ、この仕組みがより有効に機能するためには、国民が意識を高め、虐待の気配に気づいたときは、児童相談所や市町村の窓口に通告をすることが必要です」

それに加えて、児童虐待に関する専門家の育成も必要だと、中田弁護士は強調する。

「児童相談所が通告を受け、警察を伴って安否確認をする際に、子どもの怪我の様子や表情、親の怪我に関する説明から、虐待の疑いを察知しなければならないからです」

子どもの虐待死という悲惨な結果が報道されたとき、「そういえば、寒い日に子どもがベランダに出されていた」とか、「いつも怒鳴り声と悲鳴が聞こえていた」といった近くの住民のコメントを目にすることがある。つまり、国民の意識や相談機関の専門性がもっと高ければ、幼い命が救われたかもしれないのだ。

「虐待防止に向けての取り組みは、まだまだ不十分だと思います」。中田弁護士はこう指摘しながら、社会全体の意識向上を呼びかけていた。

(弁護士ドットコムニュース)

はばたき法律事務所所長
広島大学法科大学院教授(実務家みなし専任)
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