認知症の女性客に対して、百貨店が大量の婦人服を売っていたことが分かり、問題となっている。報道によると、東京都内の百貨店は4年半の間に約1100万円分もの婦人服を、ある女性客に販売していたが、そのうちの一部は認知症発症後の売買契約だったとして、今年4月、東京地裁から約240万円の返金を命じる判決を受けた。
だが認知症になれば、裁判を起こすことも難しい。このケースでも、実際に裁判を起こしたのは、成年後見人である弟だった。認知症になった姉に対して、百貨店の販売が続いていたために、弟が途中で成年後見人になって、提訴したのだ。
「成年後見人」というのは、多くの人にとって、耳慣れない言葉だろう。そもそも、成年後見人とは何なのか。そして、成年後見人にはどんな権限があるのだろうか。小松雅彦弁護士に聞いた。
●認知症などで判断能力の衰えた人を守るための制度
「成年後見人(せいねんこうけんにん)とは、認知症などで判断能力が衰え、自己の財産を適切に管理・処分できない方のために、家庭裁判所に選ばれて、財産管理や生活、療養看護をサポートする人のことです」
このように小松弁護士は、成年後見人の意味を説明する。
「成年後見制度は、判断能力の程度によって、『後見』『保佐』『補助』の3つに分かれます。また、十分な判断能力がある人が、将来に備えて、自分の後見人を選んでおく『任意後見制度』というものもあります」
今回の百貨店の裁判で利用されたのは、「法定」の後見制度のほうだ。報道では詳しく伝えられていないが、百貨店から大量の服を購入していた女性客の弟は、家庭裁判所に申し立てて、姉の成年後見人に選任してもらったはずだ。
●成年後見人には、どのような役割が期待されるのか?
ただ、小松弁護士によると、「後見人は、親族が選ばれることもありますが、財産が多いときは弁護士等が選ばれることが多いです」という。では、成年後見人に選ばれた親族や弁護士は、どのような役割を期待されるのか。
「後見人の職務は、財産管理と身上監護(医療・介護・施設等の契約締結および支払等)です。後見人は包括的な代理権のもと、本人の意思を尊重し、本人保護のためお金を管理・使用します」
つまり、悪徳不動産屋にだまされて土地を不利な条件で処分をしたり、高額な絵をまちがって買わされたりしないように、後見人が本人にかわって、財産の管理をしようということだ。ただ、包括的な代理権があるといっても、本人が居住している家の処分は後見人の一存ではできないなど、一定の制限が設けられている。
成年後見人は、本人の財産全般にかかわる代理人となるわけなので、責任が重い。したがって、「後見人は、裁判所や後見監督人によって監督されます。使い込みが発覚すれば、弁償だけでなく刑事告発され、重く処罰されることがあります」ということだ。
今後、高齢化社会が進むにつれて、成年後見人の役割はますます重要になってくるだろう。まだ無縁だと思っている人も、いつかは成年後見制度とかかわりをもつ可能性がある。どんな制度なのか、その仕組みを知っておいてもいいのではないだろうか。