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保険ショップ「販売手数料」高騰、100%の事例も…開示義務はないのか?
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保険ショップ「販売手数料」高騰、100%の事例も…開示義務はないのか?

保険の購入先は、かつては会社に出入りする保険の女性販売員からだったが、最近では、街中にある保険ショップで保険商品を購入することが珍しくなくなった。そんな中、「保険ショップ『販売手数料100%』の怪」と題した日本経済新聞電子版の記事(9月12日)が配信された。

様々な保険会社の商品を選べることから人気を博す保険ショップだが、生命保険会社から受け取る販売手数料が高騰しているというのだ。保険ショップは、客の相談に応じて、販売員が適切な保険商品を提案する。客は勧められた商品から選ぶことが多いため、保険会社は販売員に選んでもらえるよう、販売手数料を高く設定するという仕組みだ。

顧客としては、販売手数料がどのくらいなのか知っておきたいところだが、法的な開示義務はあるだろうか。もしない場合、どのような法改正によって可能になるのか。足立格弁護士に聞いた。

●販売手数料の開示は義務付けられていない

保険の販売手数料の開示は、極めて難しい問題です。顧客(消費者)の視点はもちろんのことですが、保険会社や銀行、保険ショップを含めた保険代理店の意見もしっかり聞いて進めるべきものと思います。

5月29日に施行された改正保険業法は、顧客が納得して保険に加入することができるよう、「意向把握義務」や「情報提供義務」を定めています。

前者は、販売時に、なぜ保険に入るのか、顧客の意向に沿うためにどんな保険が必要なのか、顧客の意向と保険の契約内容が合致しているかなど、顧客の意向を適切に把握することを義務づけたものです。他方、後者は、販売時に、顧客が誤解などをすることがないよう、顧客に対し、保険の契約内容に関する情報を適切に提供することを義務づけたものです。

これらの義務が設けられた理由の1つに、保険会社や保険代理店が保険を販売する際、顧客本位の販売がなされていないこともあるのではないか、との疑念も持たれていたことがあります。本音では「儲けるために、販売手数料の高い保険を売ろう」と考えていたとしても、顧客には「私の儲けが増えるので、この保険がお勧めです」とダイレクトには言わないのが通常でしょう。

そこで、改正保険業法では、「意向把握義務」や「情報提供義務」を定め、上記のような事態が生じないようにしています。ただし、改正保険業法では、顧客に対し、保険の販売手数料を開示することは義務づけられてはいません。

●「販売手数料の開示」は実現する?

10月からは、銀行で販売する外貨建て保険や変額年金保険などの運用型商品について、販売手数料の開示を行う銀行もあるようです。

前記のとおり、現在、法律上、保険の販売手数料を開示することは義務づけられていませんが、仮に法律上義務づけるとすれば、前記の「情報提供義務」の対象となる情報をある程度具体的に列挙している保険業法施行規則を改正し、当該情報に販売手数料を加えることが考えられます。

また、保険業法施行規則の改正をしなくても、監督官庁による事実上の指導や業界団体による自主ルールにより、販売手数料の開示が事実上義務づけられることもありうると思います。

しかし、他業態との比較など、保険の販売手数料の開示には、様々な論点があり、単純明快な問題ではありません。慎重に議論して決めていくべきだと思います。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

足立 格
足立 格(あだち いたる)弁護士 村田・若槻法律事務所
東京大学法学部卒業。森・濱田松本法律事務所で執務後平成27年から現事務所。保険オンブズマン紛争解決委員や日本少額短期保険協会諮問委委員などを務める。一般的な企業法務(特に、保険を含めた金融法務、M&Aや事業承継、訴訟・紛争解決、決済などを専門分野としている)の他、親族・相続関係の事件も数多く受任している。

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